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*この記事は、2024年4月15日までの情報に基づいています。
欧州 企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD: Corporate Sustainability Due Diligence Directive)は、主に欧州でビジネスを行う大企業を対象に、企業活動が人権・環境の両方の及ぼす悪影響についてデューデリジェンス(適正評価手続)することを義務化した規則です。
2024年3月15日、欧州理事会にて、CSDDDに関する最終文書を承認しました。CSDDDは2022年2月の欧州委員会の提案からその議論を開始し、欧州理事会と欧州議会との間で綿密な交渉と大幅な妥協が行われてきました。欧州諸国のドイツやイタリアなどからの大きな反発を受けるなど厳格で複雑な交渉過程を経験しているCSDDDは、欧州地域にて事業展開する日本企業にも関係する重要なサステナビリティ規則となります。
本稿は指令が現在の形になるまでの包括的な検討と議論・修正についてまとめたうえで、規則自体の概要を紹介します。
1. CSDDDの議論
2011年3月の国連における「ビジネスと人権に関する指導原則」策定以来、EUにおいては持続可能性デューデリジェンスに関する規則の一元化を目指していました。そのような経緯から、今回承認されたCSDDDは、欧州加盟国間のルール共通化を目指せ、効率的なコンプライアンス運営を地域単位で行え、公平な競争条件の確立や民事責任の法的確実性の確保に貢献していると言えます。しかし、CSDDDは以下に記述するような大幅な修正を経験しています。
2022年2月に提案された企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)案について三者間協議(欧州委員会・欧州理事会・欧州議会)の末、2023年12月に暫定合意されていました。
CSDDDは、対象企業に対して「アプローチ・プロセス・行動規範」の記述を含めて、環境・人権への悪影響に関わるデューデリジェンス(適正評価手続)を適切に企業システムへと統合することを求めています。加えて、自社のビジネスモデルと戦略がパリ協定の目標である「気温上昇を1.5℃以下に抑える」へ沿ったものであることを保証する気候変動移行計画について採択することを企業へと義務付けます。
企業がCSDDDを通じて議論しなければならない対象範囲は多岐にわたり、端的にいえば事業の「川上から川下まで」に係る環境・人権課題であると言えます。児童労働や奴隷制度、汚染や流出、生態系への被害など、これら人間だけでなく地球環境全体への影響を「特定・評価・予防・緩和・対処・是正」(デューデリジェンス)について企業は対応義務化されます。
ところが、本指令は2023年2月時点で欧州理事会にて採択される予定が、ドイツやイタリアなどの諸国からの反対を受け、暫定合意が解消されてしまう危機に陥りました。反対意見として、ドイツ側は長引く景気低迷の中で、EUの課す過剰な規制や官僚主義が企業競争力を低下させる懸念を挙げました。特に、ドイツ国内法に比べてCSDDD案が間接的な提携企業にまで人権・環境デューデリジェンスを実施する義務を課し、それら間接的な企業の責任についてもCSDDD該当企業が負う義務を課そうとする姿勢に大きな反発を表明しました。
反対意見は、主に「適用企業の対象要件」と「デューデリジェンス実施の範囲策定」、加えて「気候変動移行計画」について修正を求めています。次項では、2023年3月時点で大幅に修正された内容についてまとめます。
2. 修正された内容の大まかなまとめ
Ⅰ.「適用企業の対象要件」
(修正前)
4グループ制
EU域内企業
– グループ1: 従業員数500名以上、かつ前年度全世界での純売上高が1億5,000万ユーロ以上のEU企業。
– グループ2: 高リスク事業(繊維業・農業・ミネラル採掘業など)における売上高2000万ユーロ以上かつ従業員250人以上、全世界純売上高4000万ユーロ以上の企業
EU域外企業(第三国企業)
– グループ3: 直近会計年度の売上高が1億5,000万ユーロを超える企業
– グループ4: 直近会計年度の売上高を4000万ユーロを超え、かつ全世界の売上高の50%以上が高リスクセクターによって生み出されている企業
(修正後)
EU域内企業(高リスク事業に関する規定は削除):
- 従業員数が平均1000名を超える
かつ
- 全世界純売上高が4億5千万ユーロを超える
最終親会社の主な事業が経営に関与せずに株式を保有する場合を除き、報告義務は最終親会社に課され、そのような場合はEUで設立された事業子会社が責任を負うことになります。
EU域外企業(第三国企業):
- 直近会計年度のEU域内の純売上高が4億5000万ユーロ以上の企業
- 連結で上記に該当するグループの最終親会社となる企業
⚫︎ 適用期間について
CSDDDは、EU域内・域外問わず企業の規模間に沿って指令適用期間について以下のように区別します。日本企業が関係するであろう「EU域外企業」については以下のような適用が予想されています。
(前提条件)
「直近会計年度のEU域内の純売上高が4億5000万ユーロ以上の企業」&「連結で上記に該当するグループの最終親会社となる企業」
1. 前年度の純売上高が15億ユーロを超える企業:指令発効3年後に適用
2. 前年度の純売上高が9億ユーロを超える企業:指令発効4年後に適用
3. 上記以外かつ、前提条件を満たす企業:指令発効5年後に適用
2024年3月時点でCSDDDが承認されたことを考慮すると、EUにて事業展開を行う日本企業の一部は2027年から本規則に対応する必要があります。
II.「デューデリジェンス実施の範囲策定」
(修正前)
– 自社及びその子会社
– 川上・川下における全てのビジネスパートナー
(消費者による処分を対象外とした、全てのビジネス工程についてデューデリジェンス実施の範囲内)
(修正後)
– 自社およびその子会社
– 川上・川下における全てのビジネスパートナー
(川下における商品リサイクルや廃棄等の処分などは対象外として追加された)
Ⅲ.「気候変動移行計画」
(修正前)
– パリ協定の1.5℃目標に適した気候変動移行計画の策定・実施
– 取締役・経営陣などへ計画実施にむけて金銭インセンティブ規定を導入
(修正後)
– パリ協定の1.5℃目標に適した気候変動移行計画の策定・実施
– 金銭インセンティブ規定導入は削除
3. まとめ
修正された内容を参照すると、CSDDDはその本質を保ったまま適用されるべき範囲について議論がされていたことが確認できます。本指令は、欧州内にて超国家的法律として機能するため、CSDDDの規則に即した国内法を各欧州国は制定する必要があります。
本稿は、CSDDDの大まかな流れを確認し、修正点について確認しました。
次回は、本指令のより細かな内容について確認したうえで、欧州地域におけるサステナビリティ報告の今後についてまとめていきます。
なお、株式会社aiESGでは企業活動のサステナビリティ分析を提供するサービスを展開しています。本CSDDDに関する疑問だけでなく、企業報告のサステナビリティ対応などについて疑問を有する担当者様は、ぜひともご連絡願います。
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