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【解説】G20T20 Policy Brief ~自然資本の保全を推進するための資金調達メカニズムの提案~

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こんにちは!
このレポートでは、弊社代表取締役 馬奈木俊介、弊社取締役兼チーフリサーチャー キーリーアレクサンダー竜太が投稿した、「自然資本の保全を奨励するための融資を促進する仕組み」に関する政策概要の解説を行います。

G20の「アイデア・バンク」として位置付けられ,G20各国の有識者及びシンクタンク関係者から構成されるT20(Think20)の2023 Indiaにて弊社代表取締役 馬奈木俊介、弊社取締役兼チーフリサーチャー キーリーアレクサンダー竜太投稿の、「自然資本の保全を奨励するための融資を促進する仕組み」に関する政策概要が採択されました。


A Framework to Enhance Financing Capacity and Incentivise Preservation of Natural Assets
https://www.orfonline.org/research/a-framework-to-enhance-financing-capacity-and-incentivise-preservation-of-natural-assets/


T20の政策概要の採択は今年で2本目です。
この政策概要は、タスクフォース5:世界金融秩序の再評価(Purpose & Performance: Reassessing the Global Financial Order)に位置づけられています。


自然資本保全における課題

自然資本の保全という課題は、かつてないほど緊急性を増しています。
自然資本は地域的な便益をもたらす一方で、生物多様性や気候調節に貢献する生態系など、すべての国が享受するグローバルな公共財にも寄与しています。
世界のGDPの半分以上は自然に依存しており([1]United Nations, 2022)、気候変動や社会が直面している他の多くの脅威は、自然資本が経済の生産基盤に不可欠な要素であることを示しています([2]Agarwala et al.,2022)。


通常、保全にかかる費用は多くの場合、受け入れ国にかかるため、一般的に自然資本の保有量が多い([3]World Bank, 2021)開発途上国は、より重い負担を負うことになります([4]Managi and Kumar, 2018)。しかし、開発途上国に自然資本保全の責任を負わせることは、不公平であるばかりでなく、実現不可能です。

一方、COVID-19による財政圧力と長期的な世界成長の鈍化([5]Kose and Ohnsorge, 2023)によって、先進国の財政資源は逼迫しており、短・中期的な大規模な政府間財源移転は不可能です。そのため、今日の限られた財政資源は、政府間のソフトローン※1や二国間援助といった従来型の資金調達手段で利用可能な額が、気候変動対策やその他の環境目標に取り組む途上国を支援するために必要な額に達していません。
したがって、このギャップを埋めるために、低コストの代替資金源が緊急に必要とされています。


このPolicy Briefでは、自然資本を保全すると同時に、開発資金の利用可能性を高めるための提案を行っています。
自然資本を保全するための開発資金の利用可能性を高めるためには、
●自然資本を国全体で一貫性をもって包括的に測定する必要があることを前提に、
●開発途上国への低コストの資金調達の基礎として、自然資本の保全を活用する革新的な金融手段を創出することによって達成することができることを示します。


G20の役割

開発途上国における金融へのアクセスと自然資本の保全は、G20 と密接な関係があります。開発途上国の債務のほとんどは、G20諸国によって融資されています。したがって、気候変動や生物多様性の損失に直面する開発途上国の債務返済能力が確保されなければ、G20諸国に直接的な影響が及ぶことになります。


先進国と開発途上国が一堂に会するフォーラムであるG20は、国際金融機関(IFIs)に対し、自然資本を内部化し、融資に活用するよう影響を与えることができる立場にあります。G20のリーダーたちは、ベストプラクティスを推進し、他国と知識を共有することで、自然資本会計に弾みをつけることもできます。これは、経済や金融の意思決定における自然資本の概念を普及させ、主流にすることにつながると考えられます。


自然資本の保全は、気候変動に対するレジリエンスの向上から生物多様性の保全の促進まで、多くの恩恵をもたらします。また、持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定の目標達成にもつながります。G20が開発途上国に自然資本保全のインセンティブを与えることは、加盟国だけでなく、国際社会にとっても広範でポジティブな結果をもたらす可能性があります。


G20諸国へ向けた提言

提言1:資金調達メカニズムの提案

国際開発金融機関(MDBs)や国際金融機関(IFIs)が、自然資本の保全を支援するための手ごろな資金を開発途上国に提供するためには、自然資本の保全がもたらす潜在的な長期的利益を把握し、代替的な資金調達メカニズムを構築することが重要である。

実現には以下の条件が必要である。

●自然資本の保全がもたらす利益が明確で、測定可能で、モニタリング可能であること
●貸し手は、その便益と低い投資収益率を引き換えにすることを厭わないこと
●自然資本保全へのコミットメントが将来にわたって守られるかどうかを検証する手段があること
●途上国の通貨の不安定さに対応すること


提言2:資金調達フレームワークの提案

G20の貸し手国やIFIsの貸し手国には、融資業務の中に自然資本への配慮を直接組み込む機会が少なくとも3つある。
●自然資本資産の保全や蓄積を実証した場合に優遇される借入条件を提供する
●貸し手国や国際金融機関(IFIs)は、自然資本の状況や傾向に基づいて、自然災害に対する融資「保険」を検討する
●貸し手国やIFIsは、自然保護債務スワップ※2を活用することで、自然資本強化または気候変動関連の行動を条件に、買い取ったマークダウン※3債務の差額を債務国に返還することができる


提言3:自然資本会計をサポートする

●自然資本の測定は、現地の状況や基準に合わせて調整できるようにする
 自然資本の保全を低コストの融資の条件とするためには、国際的な環境経済会計システム(SEEA)の基準を満たす必要があるが、開発途上国がこのような基準に従うことができるよう現地の状況や基準に合わせて自然資本の測定方法を調整できるようにすることが大切である。


●国家会計基準、企業会計基準、公会計基準の調整
 自然資本を定量化し、環境と経済を結びつける統計時系列を維持することは、不可欠な計画ツールである。データの質は公的で信頼でき、入手可能で、タイムリーかつ包括的な情報源と、自然資本算定者と情報提供者の間の明確なコミュニケーションにかかっている。


●データ収集メカニズムの改善
 自然資本会計は、多くの情報源から得られた大量のデータを統合し、場合によっては複数のモデリング手法を統合する必要がある。専門知識が政府機関に分散しているため、環境経済統計には調整が特に必要である。


自然資本保全を資金調達、会計の仕組みを変えることで促進するフレームワークを提案しています。
ぜひ、ご一読ください。


※1 ソフトローン:発展途上国に対する開発融資を主たる業務としている国際復興開発銀行(IBRD)の金利では条件が厳しいという発展途上国の要請を受けて設立された国際開発協会(IDA)などが発展途上国に対して緩やかな条件で貸し付ける借款のこと。

※2 自然保護債務スワップ:開発途上国に対して、保護区の設定やその他の自然保護施策の推進について約束することを交換(スワップ)条件として、先進国やNGOなどがその途上国の負っている累積債務を肩代わりすること。

※3 マークダウン:販売開始時に設定した価格よりも、値下がりすること。


Bibliography

[1]United Nations. “Countries to Consider Ground-Breaking Change to Economic Reporting That Includes Natural Capital.” United Nations (2022).https://www.un.org/en/desa/countries-consider-ground-breaking-change-economic-reporting-includes-natural-capital.


[2]Agarwala, Matthew, Matt Burke, Patrycja Klusak, Moritz Kraemer, and Ulrich Volz. “Nature Loss and Sovereign Credit Ratings.” (2022).https://www.bennettinstitute.cam.ac.uk/publications/biodiversity-loss-sovereign-credit-ratings/.


[3]World Bank. The Changing Wealth of Nations 2021: Managing Assets for the Future. The World Bank (2021). https://doi.org/10.1596/978-1-4648-1590-4.


[4]Managi, Shunsuke, and Pushpam Kumar. Inclusive Wealth Report 2018: Measuring Progress Towards Sustainability. 1st ed. London: Routledge (2018). https://doi.org/10.4324/9781351002080.


[5]Kose, M. Ayhan (Ed.), and Franziska (Ed.) Ohnsorge. Falling Long-Term Growth Prospects: Trends, Expectations, and Policies. World Bank : Washington, DC (2023). https://doi.org/10.1596/39497.



【紹介文献】

Keeley, A. R., Halimatussadiah, A., Brodjonegoro, B., Agarwala, M., Adriansyah, M., Smith, R., Kurniawan, R., Lufti, R. E. gikami, Managi, S., & Takeda, S. (2023, July). Policy Briefs T20 for the Presidency of G20 in 2023, The G20 Insights Platform, Global Solutions Initiative Foundation,. Observer Reserch Foundation,A Framework to Enhance Financing Capacity and Incentivise Preservation of Natural Assets. https://www.orfonline.org/research/a-framework-to-enhance-financing-capacity-and-incentivise-preservation-of-natural-assets/?



*Página relacionada*.

●T20 Indonesia
 https://www.t20indonesia.org/


●【解説】G20 T20 India2023 新国富指標を用いた包括的な国富の成長測定に関する政策概要について
 https://aiesg.co.jp/topics/report/20230530_t20india_report/







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