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福岡県八女市の「八女茶」をESG評価する意義

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日本国内の茶産業はいま、産業構造が転換する局面にあります。急須離れやペットボトル茶の普及による家庭での茶葉の消費が減少、生産者の高齢化に後継者不足。多くの産地が縮小を余儀なくされる一方で、世界では健康志向の高まりを背景に「緑茶・抹茶ブーム」が起きています。

さらに、抹茶を中心に国外への緑茶の輸出額は過去最高額を更新している状態です。 こうした状況を、単なる一時的な追い風で終わらせずに、持続的な地域産業の再生へとつなげようとしている自治体があります。 それが、福岡県南部に位置する、八女市です。

八女市は、野菜や花き、果樹、茶、畜産など多様な農産物の生産を通じて、地域の自然資本を活かした農林業を基幹産業として発展してきました。なかでも八女茶ブランドの一つである「八女伝統本玉露」は、全国茶品評会「玉露の部」において、日本一の称号を25年連続で獲得しています。また、日本の地理的表示保護制度(GI認証)において、産地と産品の関係が国に認められ、緑茶で最初に認証を取得した国内最高峰の玉露です。

八女市は、なぜ「ESG評価」に取り組んだのでしょうか。 その背景には、「農業を産業として成立させ続ける」ための、強い危機感と明確な意思がありました。今回、いち早く危機に対応策を興じた、簑原悠太朗 八女市長と八女市役所建設経済部農業振興課参事補佐兼農産園芸・輸出戦略係長 ESG評価業務委託担当 谷口博信様と同課の山中志穂様に、「八女茶におけるESG評価分析の意義」について、お話を伺いました。

■クライアント紹介

八女市農業振興課
HP:https://www.city.yame.fukuoka.jp/soshiki/5/5/index.html

谷口様(左) 簑原市長(中央) 山中様(右)

「儲かる農業」を!八女市の挑戦

――八女市について、また八女市役所農業振興課の役割についてお聞かせください。

八女市は、野菜・花き・果樹・茶・畜産など、多くの品目を生産する農業の盛んな地域であり、農林業を基幹産業としています。なかでも八女茶は、「八女伝統本玉露」をトップブランドに、高級茶産地として全国的に高い評価を確立してきました。 農業振興課では、こうした地域農業を支える中核的な役割を担っています。生産者の皆さまが安心して農業に取り組めるよう、生産施設や設備・機械の導入支援をはじめ、産地のブランド化やPR事業など、幅広い施策を展開しています。また、新規就農者の支援や後継者対策にも力を入れ、将来にわたって農業が持続する環境づくりを進めています。

本市が常々掲げているのが「儲かる農業」の実現です。本市で言う「儲かる農業」とは、単に売上を伸ばすことではなく、農業によって得られる収入が増え、最終的に手元に残るお金がしっかりと確保できる状態を指しています。農業は家族経営が多く、一般の会社員と比べて収入の見えにくさが課題とされてきました。だからこそ、安定した収益が見込める産業へと転換することで、後継者が戻り、新規就農者も安心して参入できる環境を整えていくことが重要だと考えています。 農業振興課は、こうした「儲かる農業」を実現するために、現場に寄り添いながら、さまざまな取り組みを推進している部署です。

■国内需要の縮小と海外需要の拡大という矛盾

――「ESG評価分析」導入の背景と目的を教えてください。

国内の茶産業全体は、いま大きな転換期を迎えています。国内の茶消費は長期的に減少傾向にあり、八女茶においても取引額は1999年をピークに減少が続いてきました。一方で、世界的な緑茶・抹茶ブームを背景に、2025年には茶の輸出額が過去最高を記録し、全国的に抹茶不足や茶価の高騰といった現象も起きています。国内需要の縮小と海外需要の拡大が同時に進行する、まさに構造的な転換点に立たされている状況です。

こうした中、八女市にとって最大の課題は、「八女茶の産地をいかに維持していくか」という点にありました。長期的な茶価の低迷により、生産者数や栽培面積は減少を続け、特に八女茶の象徴ともいえる「八女伝統本玉露」は、直近10年間で生産面積が半減しています。ブランド力を維持・強化するためには、後継者の確保や価値を正しく伝えるための新たな取り組みが急務となっていました。

――なぜ、分析対象として「八女茶」を選ばれたのでしょうか?

八女市には、農産物をはじめ、お酒や伝統工芸品など多様な特産品があります。その中でも、「八女」と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのが八女茶です。地域の顔とも言える存在であり、近年は世界的な緑茶・抹茶ブームを追い風に、輸出量も増加しています。 まずは八女市を代表する八女茶を分析対象とすることで、国内のみならず海外でのブランド価値向上を図り、その成果を他の特産品へと波及させていきたい。八女市は、そのような戦略的な視点から、八女茶を起点とした取り組みを選択しました。

■「ESG評価」は目に見えにくい価値を可視化する

――数ある評価手法の中で、なぜ「ESG評価」を選ばれたのでしょうか?

八女茶は、全国茶品評会で25年連続日本一に輝くなど、うま味、品質面ではすでに最高峰の地位を築いています。しかし、海外市場では味や品質そのものだけでなく、その背後にある環境配慮や社会的背景といった要素を重視する傾向が強まっています。 今後、さらなる海外展開を進めていくためには、「美味しい」という評価だけでは不十分になりつつあります。どのような環境で、どのような労働条件のもとで、生産されているのか。その背景やストーリーが商品価値として問われる時代に入っているのです。ESG<Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)>評価分析は、そうした品質以外の「目に見えにくい価値」を客観的かつ定量的に示す手段として非常に有効であると考え、導入を決断しました。

――今回、aiESGをパートナーに選んだ理由を教えてください。

今回の取り組みにあたり、八女市は九州大学と「ESG評価を通じた輸出力強化および地域産業活性化に関する連携協定」を締結しています。その流れの中で、九州大学発のスタートアップである株式会社aiESGをパートナーとして選定しました。学術的な知見と実践的な分析力を兼ね備えた存在として、自治体主導のESG評価という前例の少ない取り組みを進める上で、信頼できるパートナーであると考えました。

――ESG評価は、何を可視化したのでしょうか?

今回のESG評価分析では、八女茶と中国産煎茶との比較が行われました。その結果、温室効果ガス排出量や水使用量といった環境負荷、労働条件などの社会リスクにおいて、八女茶が相対的に低リスクであることが定量的に示されました。 特に注目されたのは、「八女伝統本玉露」の伝統的な栽培方法が、社会リスクの抑制につながっている点です。長年、受け継がれてきた生産のあり方が、ESGの観点からも高く評価される。これは産地にとって大きな自信となりました。 一方で、新たな課題も浮かび上がりました。肥料使用量の多さや大気汚染物質(NOx、SO.)の排出など、改善すべき点が数値として可視化されたのです。重要なのは、この評価が「良い・悪い」の判定で終わらなかったこと。どこに強みがあり、どこに改善の余地があるのか。次の一手を考えるための「地図」が、はじめて手に入ったと言えます。

■ESG評価で地域ブランドを向上させる!

――ESG評価は、八女市の考える「儲かる農業」にどのようにつながるのでしょうか?

八女市が一貫して強調しているのは、「ESG評価は目的ではなく、あくまで手段である」という点です。最終的なゴールは「儲かる農業」で、生産者の収益向上と経営の安定です。評価そのものを誇ることではなく、どう活用し、どう価格転嫁や販路拡大につなげるかが問われています。

国内市場では、緑茶の価格には一定の上限があります。だからこそ、成長の余地は海外市場にあると八女市は考えています。 市では、輸出戦略を専門に担う部署も新設し、ESG評価をどのようにパッケージ化し、どのように伝えていくかを検討しています。数値による説得力を持ったストーリーを海外の消費者にどう届けるか。その挑戦は、すでに次の段階へと進みつつあります。

--What are your future plans?

 八女市の構想は、「八女茶」にとどまりません。まずは八女茶でモデルケースを確立し、その知見を他の農産物、日本酒、伝統工芸、さらには観光分野へと波及させていく考えです。自治体には、これまで十分に評価されてこなかった「見えない価値」が数多く存在します。ESG評価は、それらを可視化し地域ブランドとして再定義するための有効な手段になり得ます。 重要なのは、取り組む意義と活用方法を明確にすること、そして関係者との丁寧な対話です。トップの意思決定と現場の理解、その両輪が揃ってこそ、ESGは真価を発揮します。我々はこれからも八女市の農業生産者の皆さん、農業生産にかかわる関係者の皆さんのために、「儲かる農業」を実現させるために邁進します。

――本日は、ありがとうございました。八女市の事例が示しているのは、「ESGは大企業だけのものではない」という事実です。自治体が主体となり、地域資源を世界基準で評価し直すことで、持続可能な産業モデルを描くことができます。八女市の挑戦は、日本の地域産業がこれから世界とどう向き合っていくのか。その一つの指針を示していると言えるでしょう。

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