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IAF(国際認定フォーラム)/ISO(国際標準化機構)は2024年2月に重大な修正として、現行のISOマネジメントシステム規格の既存条文に、「気候変動への配慮」と「ステークホルダーの関与」を追加補足しました。この更新は、気候変動に効果的に対処するために、組織全体で一貫して実施することの重要性を強調するためです。
本稿はISO修正について簡潔にまとめ、日本企業の取るべき対応について検討します。
Table of Contents
ISO(国際標準化機構)とは?
新たなISO気候変動修正とは
● 修正の目的は「気候変動とビジネスの関連性」の明言
● 日本企業にとっての利点とは
修正への対応はどうするのか
summary
ISO(国際標準化機構)とは?
品質、安全性、業務効率の向上を目指す企業を支援するための規格(=ISO規格)を策定する世界的な独立機関です。企業にとってISO規格は、業務過程を合理化し、製品やサービスの品質を高め、国際的な規制を遵守するためのベンチマークとして認可されているため、極めて重要です。これらの規格を通じて、企業は透明性、継続的な改善、企業責任へのコミットメントを示せます。
新たなISO気候変動修正とは
2021年9月に採択されたロンドン宣言は、国際標準化機構(ISO)が世界的な気候変動緊急事態に対処するための重要なコミットメントとなりました。この宣言は、新規および既存のすべてのISO規格に気候変動への配慮を組み込むことを義務付けます。
165ヶ国のISOメンバーによって指示されたこの宣言の目的は、気候変動が国際規格に確実に組み込まれ、産業界全体で持続可能な慣行を促進し、ネット・ゼロ・エミッションへの移行を加速させることです。
変更点
2024年2月のISO修正は、ISO9001、ISO14001、ISO27001を含む31個(対象規格表3として掲載)のISO規格に適用されました。組織に対して気候変動と業務との関連性を評価し、利害関係者からの期待を考慮するよう求めています。
表1: 今回31個のISO規格へ追加修正された項目
4.1項「気候変動への配慮」 | 企業組織は気候変動がビジネス運営において問題となりうるかについて決定”しなければならない” |
4.2項「ステークホルダーの関与」 | 関与するステークホルダーは気候変動について条件を組織に与えることができる |
⚫︎修正の目的は「気候変動とビジネスの関連性」の明言
今回の修正は特定の規格に影響を与えます。対象の規格は業種を問わずマネジメントの基礎となります。今回の修正が31個の規格を対象としているのはより広範にマネジメントシステムへ気候変動を組み込んでもらうためです。
この修正は、企業が気候変動に対応することを強制するのではなく、むしろ気候変動がビジネスに及ぼす影響について考え始めるきっかけを提供します。ISO認証を持っている企業(例えば、道路交通安全に関するISOなど)であっても、気候変動について考慮し始める契機となることを期待しています。
ただし、今回の修正で求められているのは、気候変動との関連性やステークホルダーへの影響を報告書の2つの小さな章に書き加えることであり、これだけではESG対応の全てを達成するわけではありません。ESG対応に本格的に取り組む企業こそが透明性や持続可能なプロジェクトを推進することで多くの利益を享受できます。
⚫︎日本企業にとっての利点とは
今回のISO修正は、単なる規制遵守にとどまらず、企業経営にさまざまな利点をもたらします。まず、気候変動対応を経営戦略に組み込むことによって、新たな契約や市場へのアクセスが容易になる可能性があります。多くのグローバル企業や投資家は、サプライチェーンにおけるESGへの対応状況を重視しており、このISO修正はそうした要件を満たすための一助となります。
ただし、これらの利点を享受するためには、企業が気候変動を超えてESG全体に取り組み、具体的なポリシーやプロジェクトを実行に移す必要があります。したがって、今回の修正はESG対応へのトリガーとして機能することが期待されています。
参照資料:
The main drivers from the three perspectives of academia, business, and citizenship - Sustainable ESG-oriented supply chains: a strategic imperative for modern business.
修正への対応はどうするのか
当該修正は、前述したとおり企業組織側の積極的な対応が促されています。この点から、企業運営を細分化・修正対応するよりは、「統合」する形で気候変動という課題について理解・対策することが重要です。それらを踏まえて、以下のような対応が予想されるでしょう(図1と表2参照)。
図1: 簡略化した企業対応のフローチャート
表2: フローチャートの解説
STEP1: 背景と利害関係者(ステークホルダー)を見直す | – 組織の目標と、その達成に気候変動がどのように影響するかを評価する – ステークホルダーを特定し、彼らの気候変動に対する期待を把握する – 気候変動が事業運営や利害関係者の期待に影響を与える場合は、それを含むようにマネジメントシステムを修正する |
STEP2: リスクと機会を特定する | – 気候変動に関連するリスク(サプライチェーン、規制遵守など)と機会(持続可能な製品、エネルギー効率など)のうち、組織に影響を及ぼす可能性のあるものを特定する – これらのリスクと機会を評価し、それらに対処するために必要なアクションがあるかどうかを判断する |
STEP3: その他のシステム要件を修正する | – 変更が必要な場合は、以下を含むマネジメントシステムを更新する ・遵守義務 ・業務手順 ・インフラ投資研修プログラム ・気候変動に関する社内外コミュニケーション |
summary
ISOの気候変動を考慮した修正は、多くの企業に影響を及ぼす対応となります。簡潔にまとめた行動指針は以下のようになるでしょう。
・企業は”必ず”経営管理の範囲で気候変動が影響を及ぼすか決定する必要が生じ、加えて気候変動がステークホルダーにどのように影響を及ぼすかも検討する必要があります。 ・検討段階で行われた気候変動に係る決定・議論やいかなる行動変容についても”記録しておくべき”です。 ・更に、気候変動対応に係る目標や管理体制を設定することも”期待される”でしょう。 |
企業活動が気候変動とどのように関連するかを検討する上で、サプライチェーン全体分析は重要資料となります。炭素排出量の定量判断や、労働環境の分析などは、投資判断基準として最重要になることが予想されるため無視できません。また、企業が気候変動へ意識を向けることを通じて、ESG戦略について検討することも予想されます。企業は自社のESGパフォーマンスをよりよく理解するために、自社製品の製造に利用されるサプライチェーンにおける全体の影響(環境のみならず社会面についても)について理解する必要があります。
aiESGでは、企業の製品提供に係るサプライチェーンの上流からさかのぼることで、精密なESG分析を提供しています。本ISO改正を通じて気候変動・ESG戦略について検討する中で分析対応をご要望の企業担当者様はぜひとも弊社へご連絡ください。
Contact us:https://aiesg.co.jp/contact/
表3: 改訂対象のISO規格一覧(ISOの資料を参照してaiESGが翻訳)
ISO/IEC 27001:2022 | 情報セキュリティ、サイバーセキュリティ、プライバシー保護 – 情報セキュリティマネジメントシステム – 要求事項Information security, cybersecurity and privacy protection — Information security management systems — Requirements |
ISO/IEC 20000- 1:2018 | 情報技術 – サービス管理 – 第1部:サービス管理システムの要件Information technology — Service management — Part 1: Service management system requirements |
ISO/IEC 19770- 1:2017 | 情報技術 – IT資産管理 – 第1部:IT資産管理システム – 要求事項Information technology — IT asset management — Part 1: IT asset management systems — Requirements |
ISO 9001:2015 | 品質マネジメントシステム – 要求事項Quality management systems — Requirements |
ISO 50001:2018 | エネルギーマネジメントシステム – 要件と使用ガイダンスEnergy management systems — Requirements with guidance for use |
ISO 46001:2019 | 水効率管理システム-使用ガイダンス付き要求事項Water efficiency management systems — Requirements with guidance for use |
ISO 45001:2018 | 労働安全衛生マネジメントシステム – 要求事項と使用ガイダンスOccupational health and safety management systems — Requirements with guidance for use |
ISO 44001:2017 | コラボレーション・ビジネス関係管理システム – 要件とフレームワークCollaborative business relationship management systems — Requirements and framework |
ISO 41001:2018 | 施設管理 – 管理システム – 使用の手引きを伴う要求事項Facility management — Management systems — Requirements with guidance for use |
ISO 39001:2012 | 道路交通安全(RTS)管理システム-使用ガイダンス付き要求事項Road traffic safety (RTS) management systems — Requirements with guidance for use |
ISO 37301:2021 | コンプライアンス管理システム – 要求事項および使用ガイダンスCompliance management systems — Requirements with guidance for use |
ISO 37101:2016 | コミュニティにおける持続可能な開発 – 持続可能な開発のためのマネジメントシステム – 要求事項および使用ガイダンスSustainable development in communities — Management system for sustainable development — Requirements with guidance for use |
ISO 37001:2016 | 贈収賄防止マネジメントシステム – 要求事項と使用ガイダンスAnti-bribery management systems — Requirements with guidance for use |
ISO 35001:2019 | 研究所および関連組織のバイオリスク管理Biorisk management for laboratories and other related organisations |
ISO 34101-1:2019 | 持続可能でトレーサブルなカカオ – Part 1: カカオの持続可能性管理システムの要件Sustainable and traceable cocoa — Part 1: Requirements for cocoa sustainability management systems |
ISO 30401:2018 | ナレッジマネジメントシステム – 要件Knowledge management systems — Requirements |
ISO 30301:2019 | 情報と文書 – 記録の管理システム – 要求事項 Information and documentation — Management systems for records — Requirements |
ISO 29001:2020 | 石油・石油化学・天然ガス産業 – 分野別品質マネジメントシステム – 製品・サービス供給組織に対する要求事項Petroleum, petrochemical and natural gas industries — Sector-specific quality management systems — Requirements for product and service supply organizations |
ISO 28000:2022 | セキュリティとレジリエンス – セキュリティ管理システム – 要件Security and resilience — Security management systems — Requirements |
ISO 22301:2019 | セキュリティと回復力 – 事業継続管理システム – 要件Security and resilience — Business continuity management systems — Requirements |
ISO 22163:2023 | 鉄道アプリケーション – 鉄道品質マネジメントシステム – ISO 9001:2015と鉄道セクターへの適用に関する特定要求事項Railway applications — Railway quality management system — ISO 9001:2015 and specific requirements for application in the railway sector |
ISO 22000:2018 | 食品安全マネジメントシステム – フードチェーンにおけるあらゆる組織の要件Food safety management systems — Requirements for any organization in the food chain |
ISO 21401:2018 | 観光及び関連サービス-宿泊施設の持続可能性マネジメントシステム-要求事項Tourism and related services — Sustainability management system for accommodation establishments — Requirements |
ISO 21101:2014 | アドベンチャー・ツーリズム – 安全管理システム – 要求事項Adventure tourism — Safety management systems — Requirements |
ISO 21001:2018 | 教育機関 – 教育機関のためのマネジメントシステム – 要求事項および利用の手引きEducational organizations — Management systems for educational organizations — Requirements with guidance for use |
ISO 19443:2018 | 品質マネジメントシステム-原子力安全にとって重要な製品及びサービスを供給する原子力セクターのサプライチェーンにおける組織によるISO9001:2015の適用に関する具体的要求事項(ITNS)Quality management systems — Specific requirements for the application of ISO 9001:2015 by organizations in the supply chain of the nuclear energy sector supplying products and services important to nuclear safety (ITNS) |
ISO 18788:2015 | 民間警備業務管理システム – 要求事項と使用ガイダンスManagement system for private security operations — Requirements with guidance for use |
ISO 16000-40:2019 | 室内空気 – 第40部:室内空気品質管理システムIndoor air – Part 40: Indoor air quality management system |
ISO 15378:2017 | 医薬品の一次包装材料-適正製造規範(GMP)を参照したISO9001:2015の適用に関する特別要求事項Primary packaging materials for medicinal products — Particular requirements for the application of ISO 9001:2015, with reference to good manufacturing practice (GMP) |
ISO 14298:2021 | グラフィックテクノロジー – セキュリティ印刷工程の管理 Graphic technology – Management of security printing processes |
ISO 14001:2015 | 環境マネジメントシステム – 要求事項と使用ガイダンスEnvironmental management systems — Requirements with guidance for use |
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