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危機と変容の時代に、企業はどう人権を「加速」させるか
2025年11月24〜26日、ジュネーブの国連欧州本部(パレ・デ・ナシオン)で開催された「第14回 国連ビジネスと人権フォーラム(UN Forum on Business and Human Rights)」には、過去最多の4,650名が参加しました。aiESGからは、経営企画室室長・Business Directorの坂井がHuman Rights Due Diligence in Small and Medium-sized Enterprises (SMEs) in Challenging Timesへの登壇を含めて出席をしました。

このフォーラムのテーマは
“Accelerating action on business and human rights amidst crises and transformations”
(危機と変容の中でビジネスと人権の行動を加速させる)。
地政学リスク、気候変動危機、技術革新の急拡大、広がる格差、複雑化するグローバルサプライチェーン。いわゆる「ポリクライシス」の中で、企業が人権の保護やその尊重責任をいかに維持・強化するかが問われるフォーラムとなりました。
このレポート記事では、国連・参加国の議論を踏まえ、日本企業の実務者に特に重要な「5つのインサイト」と、明日から着手できる7つのアクションを整理します。また、日本発のAIを活用した人権デューデリジェンスソリューションを提供し、フォーラム内のセッションでも登壇した aiESGとしての洞察もあわせて紹介します。
■Insight 1|「危機だから止まる」のではなく、危機だからこそ加速する
フォーラム開会式では、国連ビジネスと人権作業部会から明確なメッセージが発信されました。
「世界が危機だからといって、人権責任が一時停止されることはない」
各国では、
- EU CSDDD(※1)の迷走
- 米国での反DEI活動
- サプライチェーンを直撃する紛争・クーデター
といった「逆風」の存在が共有されました。
しかし、全体のメッセージは悲観的ではありませんでした。むしろ、UNGPs(ビジネスと人権に関する指導原則)を“北極星”として、危機時こそ行動を加速せよというトーンが主流でした。
▶ 企業への示唆
- 規制や政治動向の不安定さだけを見て「様子見」に入らない
- UNGPs と自社方針を基盤に、危機下で優先すべき人権課題を再定義
- 「平時にやる」のでは遅い。今まさに危機が人権リスクを増幅していると認識し、前倒しで行動する
(※1)Corporate Sustainability Due Diligence Directive(企業持続可能性デューデリジェンス指令)
EUが企業に対し、自社やサプライチェーンにおける人権・環境への負の影響を特定・防止・軽減する「デューデリジェンス」の実施を義務付けるEUの法規制で、2024年7月発効、2027年以降段階的適用開始となる。
■Insight 2|デューデリジェンスの目的は“リスク探知”ではなく“行動変容”
複数のセッションで共通して語られたのは、人権デューデリジェンス(以下、HRDD)の本質でした。
「リスクを探知することが目的ではない。人と社会への悪影響を防ぎ、悪影響が生じたら対応することこそ目的である。」
一方で、CSDDDの対象が Tier1 に限定される懸念も示され、“Beyond Tier 1(ティアワンの先へ)” が大きなテーマとなりました。
■aiESG登壇セッション:HRDDを前に進める“実務の解決策”
「Human Rights Due Diligence in Small and Medium-sized Enterprises (SMEs) in Challenging Times」のセッションでは、aiESG 経営企画室長・坂井稜介がスピーカーとして登壇し、UN Web TVでも配信されています。
https://webtv.un.org/en/asset/k1i/k1i0efjjfd

セッションのポイントは以下です。
① HRDDは、完璧な可視性がなくても始められる
多くの企業に共通する悩み
- Tier1の先が見えない
- 原材料レベルまで把握できない
- データが揃うまでTier1サプライヤーへの対応に留まる
結果、多くの企業がTier1サプライヤーの管理に留まっています。
② aiESGによる“可視化のジャンプスタート”
aiESG は、以下のアプローチで企業のHRDDを加速します。
- 多国間産業連関(MRIO)× AI
→ Tier1の購買データから、原材料が世界のどこから来ているかを推計 - 400本超の公開レポートから国 × 産業 × 工程のESGリスクをマップ化
→ 「どこにリスクのホットスポットがあるか」を即時に把握 - 短時間で“優先すべきサプライチェーン”の方向性を提示
③ 人間は「人にしかできない仕事」に集中できる
AIや定量分析で可視化に掛る時間を効率化することで、
- 労働者や地域コミュニティの声を聞く
- 信頼関係を築く
- 文脈を理解し、倫理的判断を行う
といった、人が担うべき本質業務にリソースを割くことができます。
結果:HRDDは「探す作業」から「行動するプロセス」へ
これは、本当に苦しんでいるライツホルダーへの支援に資源を振り向ける実効性の高いHRDDを可能にします。
■Insight 3|気候・生物多様性・移住・健康――環境リスクは人権リスクそのもの
気候変動や水資源リスク、生物多様性の喪失は、移住や健康被害、労働環境の悪化を通じて直接的な人権リスクになります。
しかし多くの企業では、
- 気候関連データ
- 人権関連データ
が別々に管理されているのが現状です。
フォーラムでは、「環境・気候と人権を統合評価する方向へ、企業は加速すべき」 という強いメッセージが共有されました。
aiESGでも、ESGリスクの統合モデリングにより、“環境問題と人権リスク”の関連性を一体的に可視化する分析を提供しています。

■Insight 4|政治情勢に大きく左右される世界で、何を拠りどころにするか
今年のフォーラムでは、例年以上に政治的不安定感の高まりが共有されました。
- 中国政府代表の主張
- アメリカでのESG・DEIに対する政策後退
- EUでのCSDDDの“オムニバス化”と停滞
政治の動きがそのまま人権・サステナビリティ規制を左右する状況です。
その中で繰り返されたのは、
「各国の法制度は揺れ動いても、UNGPsは揺らがない」
企業は、
- 自社の“最低ライン”を UNGPs に置く
- 法規制はその上に積み上げるものとして扱う
という姿勢を明確にする必要があるという点でした。
■Insight 5|「誰の人権を守るのか」を具体化する:先住民族・移民労働者・人権擁護者
フォーラム各所で、先住民族・女性・子ども、移民労働者、人権擁護者(Human Rights Defenders)の声が紹介されました。特に「公正な移行(Just Transition)」セッションに登壇した16歳の若いパネリストは強い印象を残しました。
▶ 企業への示唆
- ライツホルダーを「抽象化」しない
- 特定の人々の脆弱性に着目し、事業影響を具体的に評価
- 国内の権利ホルダー(外国人労働者、障がい者、地域コミュニティ等)との対話も不可欠
■日本企業が「明日からできる」7つのアクション
- 規制ではなく、UNGPsを“自社の憲法”として再確認する
既存方針とのギャップ分析を行う。 - 「最も重大なリスク」への集中投資
データ量ではなく、人への影響度で優先順位を決定。 - グリーバンス(苦情処理)メカニズムの再設計
通報者の視点で、窓口、言語、匿名性、フォローアップ体制を見直す。 - “Beyond Tier1”のパイロットケースを一つ決める
ハイリスク国・品目を選び、NGO、行政、他社と連携した取り組みを試行。 - 国内のライツホルダーとの対話を始める
関係者とのラウンドテーブルの開催を検討。 - 取締役会に人権ブリーフィングを行う
年1回でもよいので、国際動向と自社のマテリアリティを役員へ共有。 - 信頼できるネットワークに参加する
業界団体、国連グローバルコンパクト、マルチステークホルダー・イニシアティブ(Multi-Stakeholder Initiative、MSI)など、「一社ではできない」課題に取り組む。
■おわりに:危機の時代だからこそ、人権をビジネスの中心へ
フォーラム全体を通じて発信されていたメッセージは一貫していました。
「危機と変容の時代だからこそ、人権をビジネスの中心に据えることが、企業の持続可能性を支える」
aiESGは、企業が複雑で揺れ動く世界でも、人権デューデリジェンスを“加速”できる実務的な仕組みを提供しています。
サプライチェーンの可視化、環境・人権リスクの統合評価、優先アクションの特定など、必要に応じてぜひご相談ください。
https://aiesg.co.jp/