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【開催レポート】八女茶のESG評価が拓く、地域ブランドの未来:aiESGが解析するサプライチェーンの真価

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2025年9月11日(木)に開催された「Thursday Gathering」は、当社aiESGが福岡県八女市と実施した八女茶のESG評価を発表する重要なイベントとなりました。本イベントでは、当社の評価手法と研究内容を最高経営責任者(CEO)の関が説明し、八女市の簑原悠太朗市長、福岡銀行調査役の玉木氏、九州大学准教授でありaiESGのチーフリサーチャーであるキーリー氏からの専門知識を交えたパネルディスカッションを通じて、地域経済におけるESGの可能性を深く掘り下げました。

本レポートでは、その模様を詳細にお伝えいたします。


イベント概要

  • イベント名: Thursday Gathering
  • 開催日: 2025年9月11日(木)
  • 主催: 株式会社aiESG
  • 共催・協力: CIC/Venture Café、福岡県八女市、福岡銀行

サプライチェーン全体のESGリスクを可視化するAI評価

イベント冒頭では、aiESGの関より、当社の事業概要とESG評価の重要性について説明しました。ESGに取り組まないことが企業の事業リスク、ひいては売上の甚大な損失に繋がる可能性や、米国アパレル企業が強制労働・児童労働をNGOに指摘され、不買運動によって約1兆4,000億円の売上を逸失した事例を紹介しました。環境問題に加え、社会・人権影響が企業価値に直結する国際的な潮流が到来しています。

八女茶を巡る現状とESG評価への期待:地域ブランドの海外展開を見据えて

八女市の簑原悠太朗市長からは、八女市の概要と八女茶の紹介、そして今回のESG評価に取り組んだ背景について説明がありました。

八女市は福岡県の南東部に位置し、面積は482.44㎢と福岡県で2番目に広く、人口は約59,045人です(令和7年7月末現在)。主要産業は農業(茶、菊、いちご、柑橘など)と伝統工芸(仏壇、提灯など)です。特に「八女茶」は甘くてコクがありうまみが強いことで知られ、中でも「八女伝統本玉露」は八女市黒木町笠原で発祥し、600年の歴史を持つ「日本茶の最高峰」と称されています。全国茶品評会では25年連続日本一を受賞する実績を誇ります。

しかし、八女茶の全国シェアはわずか2.2%であり、そのブランド価値をいかに維持・発展させていくかが課題となっています。日本の茶産業全体は転換期を迎え、過去5年間で生産者数は約30%減少、栽培面積も3%減少しています。特に、手間とコストがかかる伝統本玉露の生産者数は約42%減、栽培面積は約39%減と深刻な状況です。一方で、抹茶の国際的な人気が急増し、この10年間で茶の輸出量は2.5倍に増加、令和6年度の輸出額は過去最高の364億円に達しています。この抹茶ブームは、国内の茶生産者が抹茶生産への転換を進める要因ともなっています。

簑原市長は、国内市場が縮小する中で地域資源の価値を高めるためには海外展開が不可欠であると述べました。抹茶ブームは追い風であるものの、八女茶を海外で高級茶として確立するには、単なる品質だけでなく、差別化のための要素としてESG評価に着目したと話されました。ESG評価は製品の背景にあるストーリーに説得力を与え、海外での競争力に繋がると期待を寄せられました。

九州大学のキーリー准教授(aiESGチーフリサーチャー)からは、ESG評価の必要性と当社の評価手法について解説をしました。今日のサプライチェーンに潜む強制労働や児童労働などの人権侵害が、企業価値に甚大な影響を及ぼすリスクがあることを指摘。欧州ではCSRD(企業持続可能性報告指令)やDD(デューデリジェンス)といった規制が強化されており、海外市場で製品を販売するためには、サプライチェーンの透明性とデューデリジェンスへの対応が必須となっています。ESG評価は、高付加価値商品を海外市場で受け入れられるための重要な要素であり、マーケティングやブランド構築に直結することを強調させていただきました。

aiESGによる八女茶のESG評価結果:定量データが示す強みと課題

続いて、八女茶の評価分析に携わったaiESGの分析担当、Analysis and Insights 部マネージャーの市居からは、八女茶と中国茶のESGリスク比較結果を報告しました。

  • 総合的な優位性: 八女茶は中国煎茶と比較して、サプライチェーン全体における温室効果ガス(GHG)排出量、大気汚染物質、水使用量といった環境負荷が小さいことが確認されました。また、低賃金労働、過重労働、労災のリスクに加え、小作農家のリスクが小さいなど、社会リスクも抑制されていることが判明し、生産者の事業活動や労働条件・環境が適切に守られていることが示唆されました。
  • 人権リスクの詳細: 中国煎茶では、特に生産現場レベルでの低賃金労働や過重労働のリスクが大きい一方、八女煎茶の生産現場ではこれらのリスクはほとんど見られませんでした。小作農家経営リスクについても、中国では大規模化による小規模農家の存続が脅かされる懸念があるのに対し、八女では生産主体が各農家に分散しており、伝統的な栽培方法の継承が確保されている点が大きな違いとして挙げられました。
  • 八女伝統本玉露の課題: 八女伝統本玉露は、コスト面では中国玉露の3倍以上と不利なものの、ESGリスクの低さが大きな優位性であると評価されました。
  • 一方で、大気汚染物質排出量(NOx, SO2)に課題が明らかになり、上流の肥料・資材製造における燃焼起源、国内電力の火力依存、物流が複合的に寄与していることが示唆されました。伝統的な手法で製造工程やコストも高い八女伝統本玉露は、構造的に肥料を多く使用する栽培方法を採用しており、サプライチェーン全体を視野に入れた対策(低NOx化、調達先の最適化など)が求められます。

ESG評価が拓く「八女ブランド」の未来:地域経済活性化への道筋

分析結果を受けて、八女市が今後取り組むべき対策として、キーリーより主に以下の3点が提案されました。

  1. 省力化技術の導入支援: 労働集約的な工程の機械化や共同作業体制の整備により、生産者の負担軽減と持続可能な生産体制の構築を支援します。
  2. 効率的な資材利用: 栽培や包装における資材の共同購入・共同利用を進めることで、コスト削減と品質の標準化を同時に達成します。
  3. 流通・販売の効率化: 共同出荷体制や物流補助によるコスト低減を図り、特に海外展開を視野に入れた物流・販売網の整備を自治体が支援することで、新たな市場開拓を促進します。

これらの施策は、「コスト競争力強化」を主眼とするのではなく、八女茶の本質的価値である品質・ブランド維持を支えるための高付加価値化の下支えとして捉えるべきだと強調されました。

さらに、八女茶の信頼性を起点に、「ハロー効果」を活用して八女市の他の特産品(農産物、加工品、酒類など)や観光、工芸品など地域全体のブランド価値を高める「八女ブランド」の確立を目指す戦略について提案がありました。

大切なのは「具体的なストーリー」と「説得力」

福岡銀行の玉木令氏からは、地方産業の活性化においてESGは有効な手段であるものの、単に「環境に良い」というPRだけでは、他の商品との差別化が難しく、コモディティ化しがちであるとの指摘がありました。生産のプロセス、関わる人、地域のこだわりなど、具体的なストーリーを伝え、分析で得られた数値がそのストーリーに説得力を持たせることが重要であると述べられました。

かつてはサステナビリティへの取り組みは大企業だけのものと見なされていましたが、現在はサプライチェーン全体でESGへの取り組みが求められる流れが強まっています。福岡銀行の多くの顧客である地方の中小企業も、サプライチェーンの一部として、取引先からの取り組みを求められる場面が増えることが予想されます。そのため、着手しやすいアプローチや優先順位を示す、具体的な手法を伝えるなど、ファイナンスの枠を超え、コンサルティングのような立場で伴走サポートを検討していきたいと述べられました。

aiESGの関からは、若年層や海外の優秀な人材はグローバルな枠組みやサステナビリティに高い関心があり、最近参加した採用活動においても学生の熱意を感じたことから、ESGの取り組みが中小企業でも選ばれるきっかけになり得ると言及しました。

ESG評価は目的ではなく手段

簑原市長からは、今回八女茶のESG分析・評価を実施した結果、そして評価をしたという事実自体が、八女茶にとって大きな付加価値につながる点を強調されました。一方で、ESG評価はあくまで「手段」であり、「目的」ではありません。最終的には生産者がしっかりと収益を出し、お茶の産業全体が安定して経営できる状態を構築することにあると話されました。

加えて、ESG評価によって得られた「価値」を、海外はもちろん国内においても、どうやって消費者に知ってもらうか、そして最終的に価格に転嫁していくか、その戦略が非常に重要となること。そして、八女茶のブランド展開だけでなく、「八女」という名前を広げるために、お茶以外の特産品も含め、ESGなどの要素を活かしてどうブランド力を上げていくかという視点を大事にしていきたいと話されました。

ESG評価で地域資源の価値を最大化し、持続可能な未来へ

本イベントでは、aiESGのESG評価を通じて、八女茶の環境的・社会的優位性が定量的に示され、海外市場での競争力を高めるための重要な差別化要素となることが明確になりました。同時に、サプライチェーン上に見られる課題点も浮き彫りになり、今後の改善に向けた具体的な方向性が見出されました。

イベント会場でふるまわれた八女茶の試飲に参加した方々から「旨味が強く、余韻が心地よい」という感想と共に、ESG評価の結果を知ることで「こだわりの生産プロセスがこの美味しさに繋がっている」と理解が深まったという声も聞かれました。

ESG評価はあくまで手段であり、その最終的な目的は、生産者が持続的に利益を得て安定経営できることであり、そのためにはブランド展開や開示戦略、そしてその開示プロセスの効率化が不可欠であると結論付けられました。aiESGは、定量的な評価データを提供することで、信頼性の高いブランドストーリー構築を支援し、企業の成長、そして地域経済の活性化に貢献してまいります。

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