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日本の統合報告書から見るESGのトレンド

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はじめに

統合報告書は、企業が財務情報だけでなく、環境、社会、ガバナンス(ESG)などの非財務情報を統合し、組織の価値創造プロセスを包括的に示す文書です。

近年、ESGの視点が投資判断において重要性を増しており、企業はその取り組みをより具体的かつ透明性をもって開示することが求められています。そのため、統合報告書の発行件数は急速に増加し、企業のESG情報開示の重要性がますます高まっています。以下のグラフは、2004年から2023年にかけての統合報告書の発行件数の推移を示しており、その増加傾向が明らかです。

図1:国内自己表明型統合報告書発行企業等数の推移
(エッジ・インターナショナル『日本の持続的成長を支える統合報告の動向2023』より著者作成)

本記事では、日本企業の多数の統合報告書を対象に、ESG関連キーワードの変化を分析し、近年のトレンドについて考察します。

なぜ統合報告書が注目されているのか?

従来の財務報告だけでは、企業の真の価値を理解することが難しくなってきています。背景には、企業価値における無形資産の重要性が増していること、そしてESG投資の拡大により非財務情報への関心が高まっていることがあります。また、短期的な業績だけでなく長期的な企業価値創造の重要性が認識されるようになり、投資家や社会といった多様なステークホルダーの情報ニーズにも応える必要性が増しています。

これに対して統合報告書は、以下のような要素を総合的に報告することで、企業活動の全体像を示します。

  • 財務情報(経営成績、財政状態、キャッシュフローの状況)
  • 企業理念・ビジョン
  • ビジネスモデル
  • ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組み
  • 人的資本や知的財産
  • リスクと機会
  • 中長期的な戦略

統合報告書の重要な特徴は、将来志向の視点を持ち、企業の価値創造ストーリーを示すことです。財務・非財務の要素を関連付けて報告し、重要性の高い情報に焦点を当てながら、必要な情報を分かりやすく伝える工夫がなされています。このように、統合報告書は企業と社会の持続可能な発展に向けた対話のツールとして、ますます重要な役割を果たしています。

ESGキーワードの変化と分析

企業の統合報告書におけるキーワードの変化を分析するにあたり、各キーワードの重要度をスコア化しました。

スコアは、テキストマイニング分野で広く用いられるTF-IDF法という手法を用いて算出しました。TF-IDF法とは、特定の単語が文書内でどれだけ重要であるかを数値化する手法であり、単純な出現回数だけでなくその単語がどれほど特徴的であるかを考慮して評価するものです。スコアが高いほど、その単語が統合報告書内で頻繁に使用されており、企業の注目度が高いテーマであることを示唆します。

本分析では、2019年から2023年までの全ての統合報告書を対象としています。また、2024年分については現在分析を進めており、今後の動向を踏まえて追加の考察を行う予定です。

2023年の統合報告書における上位5つのキーワードは以下の通りです。

図2:2023年の統合報告書における重要キーワード

「社会」や「環境」といったESGに関連する単語が上位にランクインしています。これは、企業が環境問題や社会的責任に対する取り組みを強化し、それを統合報告書の中で積極的に発信する傾向があることを示しています。

また、「リスク」や「成長」といった単語も上位にあり、持続可能な成長を遂げるために、企業が直面するリスクを管理することの重要性が高まっていることがうかがえます。

次に、2019年から2023年の具体的なトレンドを見ていきます。

サステナビリティと持続可能な経営

まず注目すべき点は、「サステナビリティ」というキーワードの急増です。

「持続可能」「持続的」といった単語もスコアが高いです。これらの言葉は企業の長期的な成長と環境・社会的責任を両立するための経営姿勢を示しています。

投資家やステークホルダーからのESG情報開示への要求が高まる中、企業は環境負荷の低減や社会的責任の果たし方について、より具体的なアプローチが求められています。ESG投資の拡大により、企業価値を向上させるためには、持続可能なビジネスモデルの構築が不可欠です。

気候変動と脱炭素戦略

「気候変動」や「削減」も統合報告書で頻繁に登場するキーワードの一つです。この動向は、カーボンニュートラル政策の強化や、脱炭素社会への移行を目指す企業の取り組みの加速を反映していると考えられます。

企業は温室効果ガス排出量の管理や再生可能エネルギーの活用など、具体的な脱炭素対策を講じる必要があります。サプライチェーン全体での排出量削減が求められており、サステナブル調達やエネルギー効率化といった取り組みへの投資が進められています。

コーポレートガバナンスの強化

「ガバナンス」に関する言及も増加傾向にあります。特に2021年以降、日本のコーポレートガバナンス・コードの改訂や海外投資家の影響を受け、企業の透明性向上が求められるようになりました。その結果、経営層の意思決定プロセスの透明性向上や、取締役会の独立性強化といった、企業統治の質を高める取り組みが加速しています。

投資家や株主にとって、企業のガバナンスは投資判断の重要なポイントであり、今後も注視される分野の一つです。

おわりに

本記事では、2019年から2023年にかけての統合報告書におけるESG関連キーワードの変化を分析しました。その結果、ESGが企業戦略において重要な位置を占めており、環境問題や社会的責任への関心が一層高まっていることが明らかになりました。

企業は単なる情報開示にとどまらず、実際の取り組みを強化し、その成果を明確に発信することが求められています。ESGの重要性は今後も増していくと考えられるため、企業はその動向を注視しながら、戦略を適応させることが求められます。

参考:各単語の年度ごとのスコア

見出し語20192020202120222023
サステナビリティ5.095.78
持続可能4.134.474.654.574.45
持続的3.853.864.024.094.37
気候変動4.073.90
削減4.625.065.515.865.75
ガバナンス5.435.746.116.857.13

※「-」はスコアが3.5未満であることを示す。

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