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【解説】SBTs for Nature
〜科学に基づく自然関連目標〜

ESG関連の情報開示基準や規制の中で、最近注目を集めつつあるのがSBTNが発行した SBTs for Nature (科学に基づく自然関連目標設定)です。
SBTs for Natureは温室効果ガス排出量削減目標の SBT(Science-based Target)の自然版で、大気や水、生物多様性などの地球環境を保護することをミッションとして、企業や組織が科学に基づく目標設定を行うためのガイダンスです。

本記事ではSBTNとSBTs for Natureの概要、TNFDとの関連などについて解説します。

目次
SBTNとSBTi、SBTs for Nature
SBTs for Natureの構成
TNFDとの関係
おわりに

SBTNとSBTi、SBTs for Nature

初めに、SBTN設立の背景について見ていきます。

SBTNはWWF、CDP、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトなどを含めた国際的な非営利団体や経済団体などで構成される組織ですが、この設立に先んじて、共通の団体を構成メンバーとするSBTi(Science-based Target initiative)というイニシアティブが存在します。

SBTi

SBTiは2015年のパリ協定採択に伴って設立され、気候変動の抑止やネットゼロ経済における企業の競争力向上を目的として、企業が科学的知見に基づいた温室効果ガス削減目標を設定するためのガイダンスを作成しました。このガイダンスに沿って設定された目標がSBT(Science-based Target)であり、2024年2月現在日本国内で900社以上が参加しています。

SBTs for Nature

SBTiの趨勢に乗って組織されたSBTNは、気候変動に留まらない自然関連目標のためのガイダンスとしてSBTs for Nature(自然に関する科学に基づく目標設定)の第1版を2023年5月にリリースしました。対象とする領域は「淡水」「土地利用」「生物多様性」「海洋」「気候変動」の5つで、それぞれに対する企業のプレッシャーを評価し分析することで目標設定を行います。ここからはこのガイダンスの内容について少し掘り下げてみていきます。

SBTs for Natureの構成

SBTNフレームワークは5つのステップで構成されており(図1)、現在公開されているガイダンスはステップ1と2、およびステップ3の一部です。ここでは、各ステップの概要に触れつつ、実際にSBTNに取り組む企業が何を求められるのかを見ていきます。

図1:SBTNフレームワークの5ステップ
  (出典:SBTN Guide for Readers Accompanying Text for Steps 1-3)

1.分析・評価(Assess)

最初のステップは、1a. マテリアリティ・スクリーニングと1b. バリューチェーン評価からなっています。前者では組織範囲内の全ての事業活動を国際標準産業分類(ISIC4)によって分類し、目標設定が最も必要となる自然への圧力を特定します。また、この際SBTNが開発したマテリアリティ・スクリーニングツールの利用が推奨されています。後者の1bでは、重要と評価された経済活動について、企業による圧力の大きさと地域ごとの自然状態(State of Nature, SoN)とを照合し、特に影響の大きい地理的範囲を特定します(図2)。

図2:プレッシャーと自然状態の照合
  (出典:Technical-Guidance-2023-Step1)


2.理解・優先順位づけ(Interpret & Prioritize)

ステップ2は4つのサブステップから構成されており(図3)、それぞれ以下の手順を踏んで進められます。

2a. 目標境界の決定:
利用可能なデータに基づいて、上流および直接操業の両方において目標境界を定義する

2b. 理解・ランク付け:
環境及び社会的マテリアリティを使用し、目標境界内の地域をランク付けする

2c. 優先順位付け:
行動の緊急性(カットオフ)と共同便益に関する追加の基準を使用し、目標境界内の場所に優先順位を付ける

2d. 実現可能性と戦略的利益の評価:
追加の社会的および人権的考慮事項を組み込み、目標の範囲内での行動の実現可能性を評価する

図3:ステップ2の概要
  (出典:Technical-Guidance-2023-Step2)

3.計測・設定・開示(Measure, Set & Disclose)

ステップ3では5つの対象領域のうち、淡水および土地についてのテクニカルガイダンス(土地はβ版)、生物多様性に関するショートペーパーが公開されています。また、気候についてはSBTiの参照が示されています。

一例として、淡水領域では「水量(地表水および地下水からの淡水取水量)」、「淡水の品質(特定の期間内に地表水域に取り込まれる窒素とリンの総量)」を自然への圧力と見なし、それらを評価するために必要な情報や、具体的な目標設定方法などが示されています。

4.行動(Act)、5.追跡(Track)

ステップ4以降について具体的なガイダンスは未公表ですが、設定した目標を達成するための具体的な対応オプションや、達成状況の追跡、報告の方法が開発されています。また、淡水など一部の領域に関しては、既にステップ3のガイダンスに行動のためのリストが含まれています。

以上がおおまかなSBTs for Natureの構成です。各ステップではSBTN独自のツールやデータベースの利用が推奨されているほか、温室効果ガス削減目標であるSBTを既に策定している企業にとっては目標設定を有利に進めることができる、といった特徴があります。

TNFDとの関係

企業の自然関連リスクを評価する指標としては、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、 自然関連財務情報開示タスクフォース)が存在します。TNFD提言に基づいた情報開示を行う企業にとって、SBTs for Natureはどのように対応すべきでしょうか。

基本的には、両者は互いに補完し合う関係であると考えることができます。自然に対する企業や組織の影響をプラスにするという共通の目的のもと、TNFDが現状を評価し情報開示を行うためのフレームワークであるのに対し、SBTs for Natureは適切な目標設定を行うことを意図しています。TNFDは2023年に公開した最終提言の追加ガイダンスとして、SBTNと共同で2つの指標の関連を示したテキストを公開しました。そこでは、TNFDの提唱するLEAPアプローチとSBTs for Natureのアプローチの関係が示されています(図2)。

図4:TNFDとSBTNの関係
  (出典:Guidance for corporates on science-based targets for nature)

TNFDに準じた情報開示に取り組もうとする企業にとって、これまで詳細な現状評価やターゲット設定の手順はある程度企業の裁量に委ねられてきた部分がありました。今後それらの具体的な方法がSBTsの利用によって確立されていくことも考えられます。

おわりに

本記事では、注目が高まりつつある SBTs for Natureについて、その背景や企業の求められる対応、TNFDとの関連についてご紹介しました。SBTs for Nature は現時点では国内における具体的な動きは多くありません。しかし、既にSBTiへ参加している企業数や昨年最終提言が公表されたTNFDへの関心などを考慮すると、今後目標設定のスタンダードとして定着する可能性は十分に高いと考えられます。科学的根拠に裏付けされた目標を設定し、説得力のあるESG経営を行うためにも、早期から対応を検討していく必要がありそうです。

aiESGでは、SBTs for Natureの基本的な内容から実際の目標設定に至るまで、サポートいたします。
ESG対応にお困りの企業様はぜひお問合せください。


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