8月15日付の日経新聞1面に弊社が掲載されました。米中対立による電気自動車(EV)のサプライチェーン(供給網)への影響について、「aiESG」のサービスを用いた分析を行っています。
「Forbes Asia 100 (アジアの注目すべき企業100選)」にも選出された弊社が独自開発したESG評価サービス「aiESG」によって、電気自動車のサプライチェーンに対してどのような分析を行ったのか、このレポートで解説します。
【レポート要約】
・アメリカでは今後、電気自動車のサプライチェーンから中国が排除される可能性が高い
・サプライチェーンから中国を排除して電気自動車を製造した場合、環境面、人権面ともにESG指標が現在よりも悪化することがaiESGによる分析で明らかになった
・ESG指標の悪化の要因は、中国に代わってメキシコなどからの部品供給が増加し、さらにサプライチェーンを辿った先に中南米やアフリカ諸国が多く含まれることが考えられる
【背景】
アメリカのEVサプライチェーンから中国を排除する動きが加速
2022年8月にアメリカで成立した「インフレ抑制法(IRA)」では、電気自動車を北米で組み立てる、電池用部品の50%を北米で製造する、といった条件を満たせば、1台あたり最大7,500ドルの税額控除が受けられると定められています。そして、電池用部品の北米調達比率は2029年に100%にまで引き上げられる予定です。
ロシアによるウクライナ侵略や、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うサプライチェーンの寸断を受け、経済安全保障の重要性が各国で再認識される中、この法律によってアメリカにおける電気自動車のサプライチェーンから中国が排除されることが予想されます。その結果、環境リスクや人権リスクといったESG評価にどのような変化が起きるのか、弊社と日経新聞の共同で分析を行いました。
【分析方法】
製品・サービスごとのESG評価が可能な「aiESG」のサービスを活用
分析にはデータベースと独自開発のAIを組み合わせて、製品・サービスごとの精緻で多角的なESG評価を行う「aiESG」のサービスを用いました。
アメリカの電気自動車製造の現在(2021年)と、サプライチェーンからの中国の排除が予想される未来(2030年)が、環境リスクや人権リスクに関する29項目でどのように変化するのかを調査しています。
2030年の中国に代わる各種部品の調達国については、マーケット調査会社による将来の予測データを元に調達国ごとの比率を設定しました。
29項目の中には、気候変動に影響を及ぼすGHG(温室効果ガス)の排出量や水資源に関連した総水使用量(工業排水)といった環境リスク項目と、強制労働や児童労働、労災と死亡事故のような人権リスク項目を満遍なく網羅しています。
29項目に及ぶ多項目での分析を行った理由として、有価証券報告書へのサステナビリティ開示義務化によって、自動車業界においても各企業がESGに関する主要項目についての戦略や進捗状況の指標などを開示するようになっています。そして、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が設立されるなど、生物多様性にまつわる情報開示が今後さらに詳細に求められるであろう時代背景を考慮しました。
【調査結果】
サプライチェーンからの中国排除によって環境リスク、人権リスクが高まる懸念
29項目のうち約6割にあたる17項目で、21年より30年の指標が悪くなることが分かりました。すなわち、インフレ抑制法(IRA)に対応し、サプライチェーンから中国を排除した結果、ESGへの負荷が増加することが指標から明らかになったのです。(図1)
各項目を具体的に見ると、環境リスクにおいては、CO2(二酸化炭素)排出量(対21年比-14.18%)、GHG(温室効果ガス)排出量(同-21.59%)、エネルギー使用量(同-6.65%)といった項目では、21年よりも30年の方が良化していますが、大気汚染につながるSO2(二酸化硫黄)排出量(同+16.94%)、PM10(粒子状物質)排出量(同+2.01%)など18項目中9項目で指標が悪化。人権リスクでは、低賃金労働(同+4.35%)、児童労働(同+7.15%)、労災と死亡事故(同+11.89%)といった10項目中7項目で指標の悪化が見られます。
インフレ抑制法(IRA)は、過度なインフレの抑制と同時に、エネルギー安全保障や気候変動対策を迅速に進めることを目的とした法律とされていますが、電気自動車においては、この法律によって温室効果ガス排出量は減るものの、大気汚染物質や人権など社会面ではマイナスの影響を及ぼす可能性が指標から示されました。
【考察】
サプライチェーンが北米から中南米、アフリカへと広がることがESG指標悪化の要因に
今回の分析で21年と30年の設定データの大きな違いは、サプライチェーンにおける中国の有無になります。分析では電気自動車を構成するバッテリー、モーター、内外装部品、車体といった各パーツごとの指標の変化を見ることもできますが、最も影響が大きいのがバッテリーです。21年のバッテリーの主要なサプライチェーンが中国、韓国、日本であるのに対して、インフレ抑制法(IRA)によって北米での製造が求められる30年にはアメリカ、カナダ、メキシコが調達国となります。
「aiESG」のESG評価は、サプライチェーンの一次供給先だけではなく、そこから国境を越えてすべてのサプライチェーンを辿っていきます。そのため、アメリカ、カナダ、メキシコがバッテリーの調達国となったことにより、中南米やアフリカといったその周辺国にまで広がるサプライチェーンのESG評価が可能となります。
欧州を中心に人権デューディリジェンス(人権DD)への取り組みが強化されていますが、今回の分析では人権リスク10項目のうち7項目で指標の悪化が見られました。国際労働機関による調査では、メキシコの労災リスクが世界5位であることが明らかにされています。中国からメキシコをはじめとした北米諸国へとサプライチェーンが変化することにより、人権リスクの指標の悪化に影響を及ぼしたことが推測されます。
同様に、環境リスクにおいても、中国、韓国、日本からアメリカ、カナダ、メキシコへとサプライチェーンが変化し、その周辺国まで辿った上でのESG評価が、18項目中9項目の指標悪化に影響を及ぼしたことが考えられます。
【まとめ】
EV生産からの脱中国の流れには、ESGの観点から大きな課題が潜んでいる
国境をまたいだサプライチェーンを最後まで辿ることができる「aiESG」の分析によって、米国の電気自動車のサプライチェーンから中国が排除された場合、ESG評価においては環境面、人権面共に悪化することが明らかになりました。バッテリーをはじめとする部品の供給先が、中国からメキシコなどのアメリカ周辺国、さらにその先で中南米、アフリカなどへとシフトすることが、ESG指標の悪化に影響を及ぼしていると考えられます。
aiESGは、製品・サービスの包括的なESG評価により、ESGリスクの観点から注視すべき主要な項目を特定するなど、ESG観点に適合した製品やサービスの開発、そしてマーケティング・ブランディング戦略の策定をサポートしています。
ESGに配慮した製品やサービスの開発、およびマーケティング戦略の立案に課題を抱える企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
サービスについてのお問い合わせ:
https://aiesg.co.jp/contact/
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https://aiesg.co.jp/news/2309_tnfd/