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※本稿は、aiESGのESG調査チームが執筆した原稿(英文)を和訳し、掲載用に三部構成に編集したものです。英文原稿はこちらよりご覧いただけます。
※Please see the original article in English here.
目次:
はじめに
環境と社会に対するサプライチェーンの影響の重要性
Conclusion.
はじめに
図1 ある製品を生産する時のサプライチェーン影響を示したマップイメージ図
現代社会においてはサプライチェーンの重要性が高まっています。サプライチェーンは、採取、輸送、生産、販売などの多くのプロセスを通じて、資源とエネルギーが製品やサービスへと変化する過程で関与する全ての人々、組織、資源、活動、技術を結びつけます。言うまでもなく、現代の高度にグローバル化した世界では、多国籍企業であれ中小企業であれ、生産者やサービス提供者は多くの国にまたがり、多数の供給者が関与する広範かつ非常に複雑なサプライチェーンのハブとなっています。
このように企業の事業活動は、そのサプライチェーンを通じて環境(資源利用、水利用、エネルギー消費棄物、炭素排出など)および社会(雇用慣行、労働者の安全、地域社会との関係など)に対してグローバルおよび地域に影響を及ぼします。これは、企業がこれらの影響に気付いていない場合も、または通常は自分たちの責任範囲外と見なす場合でも、サプライチェーンを通じて地球と人々に対する潜在的な影響に対して責任を負っていることを意味します。従来、企業はサプライチェーン管理において効率性の向上とコスト管理にのみ関心を持っていましたが、最近の傾向はこのパラダイムが急速に変化していることを示しています。現在、企業はサプライチェーンに内在する潜在的なESGリスク1を理解し報告するだけでなく、そのリスクを軽減し、サプライチェーンのESGパフォーマンスを向上させるために積極的な措置を講じ、サプライヤーと密接に連携することが求められています。
*1環境(例:気候変動、資源の枯渇、汚染、生物多様性の喪失)、社会(人権侵害、労働およびコミュニティへの影響)、ガバナンス(腐敗、不倫理な行動)への影響により会社に損害を与えるリスク
今回、「持続可能なESG志向のサプライチェーン:現代ビジネスの戦略的必須条件」と題し、以下のテーマについて全3回にわたって解説します:
第一回
・サプライチェーンが環境および社会に与える影響
・企業や国連の調査結果によるサプライチェーンリスクの事例
第二回
・企業が持続可能で強靭なサプライチェーンを構築する動機となる潜在的な利点と機会は何か
・何もしないことのリスクについて
第三回
・必要なステップと課題について
・企業がサプライチェーンのESGパフォーマンスを理解し改善するためにテクノロジーがどのように役立つか
・aiESGの最先端ソリューションについて
・サプライチェーンの近未来のトレンドについて
第一回となる今回の記事では、サプライチェーンが環境と社会に与える影響の重要性を確認していきます。
環境と社会に対するサプライチェーンの影響の重要性
サプライチェーンは環境と社会の両方に大きな影響を与えます。例えば、温室効果ガス(GHG)排出量について言えば、サプライチェーンは世界全体の排出量の60%以上を占めており、GHGの最大の発生源です。多くの場合、組織のカーボンフットプリントの大部分はサプライチェーンからの排出(上流排出)と製品の使用および利用からの排出(下流排出)のスコープ3に起因しています。いくつかの産業では、全体のカーボンフットプリントの80〜90%以上がスコープ3に由来しています。このため、現在では企業がスコープ3排出を測定し削減するための行動を取り、その進捗をSBTi、CDP、GRI、TCFD、ISSBなどのさまざまなガイドラインや規制に沿って開示・報告することが求められています。
図2 GHGプロトコルの範囲とバリューチェーン全体にわたる排出量の概観
サプライチェーンは最大の排出源であるだけでなく、気候変動の最大の被害者でもあります。熱波、干ばつ、ハリケーン、集中豪雨などの極端な気象現象は、気候変動により頻度と規模が増大しており、資源採取および生産現場で被害を受けやすい労働者や地域社会に健康被害をもたらし、サプライチェーンに混乱を引き起こします。最近の調査によると、2人に1人のCEOが気候変動によるサプライチェーンの混乱に苦しんでおり、25%のCEOがこれを最大のビジネスリスクの一つとしています。
気候変動への影響だけでなく、サプライチェーンは汚染、資源の枯渇、生物多様性の喪失など、広範な環境にも大きな影響を及ぼします。国連によると、多くの産業は直接の事業活動よりもサプライチェーンのオペレーションを通じた環境への影響がはるかに大きいことが指摘されています。例えば、金融サービス、食品・飲料、銀行業界などでは、環境への影響の98%がサプライチェーンに起因し、企業の直接の事業活動による影響はわずか2%です。
したがって、企業は自分たちの事業活動がグリーンであると主張するだけでは不十分であり、サプライチェーン管理という「見過ごせない問題」に対処する必要があります。この認識に基づき、TNFDやSBTNなどの新しいイニシアティブが登場しており、企業はバリューチェーンの上流および下流を含む事業活動の自然関連リスク(生物多様性の喪失、生態系の劣化、資源の枯渇)を情報開示や目標設定などすることが求められています。
同様に、社会面においても、サプライチェーンは年間推定4億5千万人を雇用するなど、巨大な社会的責任を負っています(ILOデータ)。サプライチェーンは多くの企業が見落としてきた重大な人権リスクを呈しています。サプライチェーンの深さが増すほど、可視性は低下し、特に深層部では違反の可能性が高まり、重大な環境・社会影響が見過ごされがちです。サプライチェーンの可視性が限られることで、特に新興市場においては、労働者や広範な社会に対する悪影響を企業が認識していないことが多く、人権侵害のリスクが高まります。特に女性、移民、子供など、被害を受けやすいグループがリスクにさらされています。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ディープサプライチェーンにおける多数の非倫理的な労働慣行と人権侵害について報告を行なっています。例えば、アパレル業界では、バングラデシュのラナプラザ縫製工場崩壊のような大災害が1,138人の労働者の命を奪った事件があります。ジュエリー業界では、ジンバブエやアンゴラなどの紛争地でのダイヤモンド採掘に関連する人権侵害を指す「血塗られたダイヤモンド」事件が有名です。テクノロジーおよび製造業界では、コンゴ民主共和国や隣接する国々の紛争地域で採掘されるタンタル、タングステン、金、リチウム、コバルトなどの「紛争鉱物」に関連するスキャンダルが蔓延しています。グローバルな自動車メーカーは、新疆ウイグル自治区から調達されたアルミニウムの使用について、ウイグル人の強制労働のリスクを含む問題で非難されています。ILOによると、世界中で推定2,800万人が強制労働の被害を受けています。
グローバルサプライチェーンにおける人権リスク:
強制または強制的な労働 |
人身売買 |
借金労働 |
結社の自由と団体交渉権の制限 |
劣悪で不衛生または危険な労働環境 |
違法な児童労働 |
過剰労働時間 |
サプライヤーとの取引における人権リスク(金融セクターの例)
サプライヤーにて十分な賃金が支払われていない、規定日 迄に給料が支払われないリスク |
サプライヤーとの取引を通じて、サプライヤーにおける長時間 労働を誘発するリスク |
サプライヤーとの取引を通じて、処罰の脅威等による強制的 な労働を助長するリスク |
サプライチェーン上の企業にて、人種、性別、言語、年齢等 を理由に採用、昇進昇格、賃金等について、合理的理由 なく差別したり、不利益を与えたりするリスク |
人権侵害や環境破壊に関連するリスクの大部分は、サプライチェーンの深部で発生します。多くの企業は、バリューチェーンの管理に関する必要な情報がなければ、これらの侵害に無意識に加担している可能性に気づいていません。その情報にはサプライヤーのビジネス慣行の倫理性に関する洞察や、製品ライフサイクルの詳細な理解(資源の地理的起源、その企業への輸送ルート、および関連するESGリスク)が含まれます。最近まで、企業はこれらの問題に対処するための動機やノウハウをほとんど持っていませんでした。しかし、これは急速に変化しています。
Conclusion.
第一回では、サプライチェーンが環境と社会に与える影響の重要性について企業の事例や国連の調査結果などを交えて紹介しました。第二回では、企業が持続可能なサプライチェーンを推進する要因や、推進することにより得られる利点や機会、無行動によるリスクについて解説します。
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