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【解説】TNFDとは?金融と自然環境の新しい架け橋

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昨今、耳にする機会の増えたTNFD。

最終提言の公開を間近に控え、気になっている方も多いのではないでしょうか?

しかしそもそもTNFDとはいったいどういったものなのでしょうか。

本記事ではその設立背景から具体的な内容、情報公開までのプロセスについて解説します。

TNFDとは

TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、 自然関連財務情報開示タスクフォース)とは、金融機関や企業が自分たちの事業活動と自然との関係を適切に評価し、開示するためのフレームワークです。自然環境や生物多様性へ事業が及ぼす影響や、反対に自然の変化から企業が受けるリスクを把握し公開することで、自社のリスクを明らかにすること、投資家や社会からの適正な評価を受けることが期待できます。


TNFDの最終提言は2023年9月18日に公開予定です。TNFDは「世界の金融の流れを自然にとってマイナスの結果から、プラスの結果へとシフトさせること」[1] を目的として、企業や金融機関が自らの事業に関わる自然関連リスクと機会を報告するためのフレームワークの開発、提供を目指しています。2021年6月に設立されて以降、4度に渡ってβ版フレームワークが発表されてきました。


TNFDは既に東証プライム上場企業の9割以上が準拠している[2] TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース)の「自然版」と位置付けられます。完全版公開後にはさらに多くの企業が開示に向けた動きを本格化することが予想されますが、実際にはどのようなプロセスが必要となるのでしょうか。

図1:TNFDの位置づけ  (出典:TNFD Full Beta Summary v0.4)

TNFDの構成

はじめに、TNFDを構成する要素について整理します。2023年3月に公開されたフレームワーク v0.4 の時点では、TNFDは以下の要素で構成されています。

開示提言の4つの柱(Four pillars of recommendations)

広く採用可能な4つの提言が紐づけられる、TCFDと共通の4つの柱

1. ガバナンス(Governance)
2. 戦略(Strategy)
3. リスクとインパクトの管理(Risk & Impact Management)
4. 測定指標とターゲット(Metrics & Targets)

開示提言(Recommended Disclosures)

4つの柱の下に位置する、14の具体的な提言(図2)

一般要件(General Requirements)

開示提言の4つの柱を横断する6つの一般要件

1. マテリアリティへのアプローチ(Approach to materiality)
2. 開示範囲(Scope of disclosures)
3. 自然関連の依存と影響、リスクと機会の考慮(Consideration of nature-related dependencies, impacts, risks and opportunities)
4. 所在地(Location)
5. 他のサステナビリティ開示との統合(Integration with other sustainability-related disclosures)
6. ステークホルダー・エンゲージメント(Stakeholder engagement)

LEAPアプローチ

TNFDによる情報開示に役立てることが推奨される任意のガイダンス。発見(Locate)、診断(Evaluate)、評価(Assess)、準備(Prepare)の4段階によって、自然関連リスクと機会を評価する際の指針となる。

図2:TNFD開示提言の草案  (出典:TNFD Full Beta Summary v0.4)



このうちLEAPアプローチは開示が義務付けられるものではなく、自然関連課題についての情報公開を準備するための手段として利用が推奨されています。一方で、4つの柱に基づく開示提言とそれらを横断する一般要件については、これらに準拠した情報公開を行う必要があります。

開示提言の測定と評価に利用される指標はフレームワーク v0.4 で初めて公表されました。全てのセクターにおいて開示が強く求められる「グローバル中核開示指標」には、以下のようなものがあります。

指標番号カテゴリ概要
C1.0気候変動スコープ 1、2、および 3 のGHG排出量
C2.0陸/淡水/海の利用の変化陸/淡水/海の利用の変化の総量
C2.1陸/淡水/海の利用の変化優先生態系における陸/淡水/海の利用の変化
C3.0汚染/汚染除去土壌に放出される汚染物質の種類別総量
C3.1汚染/汚染除去排出される廃水の総量および廃水中の主要な汚染物質の濃度
C3.2汚染/汚染除去有害廃棄物の総発生量
C3.3汚染/汚染除去GHG以外の大気汚染物質の総量
C4.0資源の利用/涵養水ストレス地域からの取水と消費
C4.1資源の利用/涵養陸/淡水/海から調達される高リスクの天然資源の量
C4.2資源の利用/涵養優先生態系から調達される天然資源の量と割合
C5.0自然関連リスク1)物理的リスク、2)移行リスクにさらされる年間収益の割合と総額
C5.1自然関連リスク自然関連の1)物理的リスク、2)移行リスクにさらされる資産の割合と総額
C5.2自然関連リスクリスク評価(e.g. 高、中、低)別の、リスクにさらされる資産/年間収益の割合と価値
C5.3自然関連リスク生態系サービスに大きく依存する、または自然に大きな影響を与えている資産価値/年間収益の割合と総額
C6.0自然関連機会種類別の、自然関連の機会に割り当てられた資本の価値
表1:グローバル中核開示指標  (出典:TNFD Disclosure Metrics Annexes より著者作成)

TNFDの公開が優先される業界と準拠動向

TNFDはフレームワーク v0.2 の中で金融・非金融それぞれの優先セクターを提案しています(表2)。これらのセクターと業界は「自然との依存関係と影響が他に比べて大きく、財務的な影響を受けやすい」[3] とされており、優先的にセクター別ガイダンス/提言が開発されます。裏を返せばTNFDに準拠した情報開示を求められる可能性が高い業界と言えます。

セクター業界
非金融
食品と飲料食肉・家禽・乳製品/農産物/アルコール飲料/ノンアルコール飲料/加工食品
再生可能資源と代替エネルギー森林経営/パルプ・紙製品/バイオ燃料
インフラエンジニアリング・建設サービス/水道事業・配水サービス/電気事業・発電事業
採掘、鉱物加工建築資材/金属・鉱業/石油・ガス
ヘルスケアバイオテクノロジー・医薬品
資源変換化学
消費財アパレル・アクセサリー・履物
運輸船旅会社/海運
金融銀行/保険会社/資産運用会社/資産所有者/開発金融機関
表2 :TNFDが提案する優先セクター  (出典:The TNFD framework beta v0.2 より著者作成)


最終提言公開前のTNFDですが、既にレポートを策定している組織や企業は増加しつつあります。以下は2023年8月までにTNFDレポートを公開している代表的な企業です。

企業名公開時期レポート
キリンホールディングス2022年7月2023年7月「環境報告書2022」「環境報告書2023」
三井住友フィナンシャルグループ2023年4月「SMBC グループ 2023 TNFD レポート」
花王株式会社アクセンチュア株式会社2023年4月「生物多様性がもたらすビジネスリスクと機会–TNFD評価 地域特性を踏まえたケーススタディ–」
株式会社資生堂2023年5月「2023 Shiseido Climate/Nature-related Financial Disclosure Report 」
KDDI 株式会社 2023年6月「TNFD レポート 2023」
日本電気株式会社2023年7月「NEC TNFD レポート 2023」
東急不動産ホールディングス2023年8月「TNFDレポート〜東急不動産ホールディングスグループにおけるネイチャーポジティブへの貢献〜」
表3 :TNFDレポートを公開している企業(2023年8月時点)

TNFD開示に必要なプロセス

TNFDは「自然」という巨大な概念が対象となる上、その定義や指標を標準化していく途上にあります。レポートの策定に取り組もうとしても入り口で行き詰ってしまう企業も多いかもしれません。ここでは既に公開されているTNFDレポートに共通する特徴や優先して調査するべき開示事項を基に、必要なプロセスを検討していきます。


TNFDに準拠する上で重要となるのは、開示提言の4つの柱です。すなわち、「ガバナンス」「戦略」「リスクとインパクトの管理」「測定指標とターゲット」のそれぞれについて情報開示が必要となります。このうち「ガバナンス」、「リスクとインパクトの管理」の一部については、自然関連の依存やインパクトに関して企業の実際の体制や行っている取り組みを記述することである程度の要件を満たすことができます。一方、「戦略」、「測定指標とターゲット」ではサプライチェーン全域における定量的な指標やその測定方法の開示が求められています。要求される全ての指標について一次データを取得することは容易ではありません。実際にこれまで公開されているTNFDレポートでは既存のサステナビリティレポートからの転用や個別の環境に関する取り組みに焦点を当てているものも多く、要求される全ての指標を網羅した情報公開の形式が確立されるのは完全版の公開後となりそうです。


開示を目指すにあたってはじめにすべきことは、自社の事業拠点や産業ごとに自然への依存と影響がどの程度あるかを把握し、優先的に考慮すべき地域、活動を特定することです。この際にLEAPアプローチを積極的に利用することで、分析の過程に説得力を持たせることができます。

おわりに

TNFDの浸透による影響は大企業だけとは限りません。サプライチェーンの上流下流に位置する事業者が取引先から自然関連リスクについての情報開示を求められる、といった状況が増えることも考えられます。一足飛びに完全なレポート策定とまでは行かずとも、各企業が自社の事業活動について、自然への依存や影響を把握することがこれまで以上に大切になっていきます。


aiESGでは、TNFDについての基本的な内容から実際の非財務情報の開示に至るまで、サポートいたします。TNFD対応にお困りの企業様はぜひお問合せください。


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https://aiesg.co.jp/contact/


Bibliography
[1] https://framework.tnfd.global/introduction-to-the-framework/executive-summary/v04-beta-release/
[2] https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00142/01613/

[3] https://framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2022/07/22-22506-TNFD-Framework-Summary-ja_jp.pdf


*関連ページ*
【解説】TNFDの開示状況と課題
https://aiesg.co.jp/topics/report/230102_tnfdreport2/

【解説】TNFD最終提言のポイントと企業が求められる対応
https://aiesg.co.jp/topics/report/231106_tnfdreport3/

aiESG、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フォーラムに参画
https://aiesg.co.jp/topics/news/2309_tnfd/

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