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【解説記事】人権リスクの算定手順

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はじめに

近年、企業における「人権リスク」への対応が重要な経営課題となっています。これは2011年に国連が採択した「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」に端を発し、企業が自らの事業活動を通じた人権侵害の防止・是正を求められるようになったことが背景にあります。
このような動向を受けて、企業が人権リスクを「見える化」し、適切に管理するための算定手法が注目されています。

本記事では、aiESGによる人権リスクの定量化手法について解説し、その結果が企業活動にどのように役立つのかをご紹介します。

人権リスクとは

人権リスクとは「企業の事業活動やそのバリューチェーンに関連して発生し得る、人権侵害の可能性のある状況」を意味します。
このようなリスクには、たとえば、強制労働や児童労働、最低賃金未満の賃金支払い、過酷な労働条件、差別やハラスメント、地域コミュニティの権利侵害などが挙げられます。

企業の事業活動やバリューチェーンで考慮すべき人権リスクについては、国連世界人権宣言やILO条約などの国際的ガイドラインや合意文書を根拠にして、社会的ライフサイクルアセスメント(Social Life Cycle Assessment, S-LCA)[1]のガイドラインで下記の通り整理されています(図1)。

図 1 企業活動で考慮すべき人権・社会的リスク一覧

[1]UNEP. (2020). Guidelines for Social Life Cycle Assessment of Products and Organizations 2020. United Nations Environment Programme.
https://www.lifecycleinitiative.org/library/guidelines-for-social-life-cycle-assessment-of-products-and-organisations-2020/

S-LCAは、原材料の採取、製造、流通、使用、廃棄またはリサイクルに至るすべての段階を含み、製品やサービスのライフサイクル全体にわたって、それに関連する社会的影響を評価するために用いられる枠組みです。

aiESGにおける人権リスク定量化の方法

aiESGでは、上述のS-LCAの国際的ガイドラインに基づき、九州大学馬奈木研究室の研究実績に基づいた社会的ビッグデータを活用し、AIを用いた産業平均データで補完することで、ある製品の製造にかかる社会影響を、サプライチェーンの最上流まで積み上げた包括的な推計を可能にしています。

この推計において、人権リスクは「Risk Hours(リスク労働時間)」として定量化されます。リスク労働時間とは、「ある製品の生産に関わる労働のうち、人権侵害のリスクがある環境下において労働が行われると推定されるリスク時間の総計」を表します。
人権リスクを「労働時間」の単位で表す理由は、労働時間がサプライチェーン上の経済活動の分布や規模を把握する上で有効な指標であるためです。労働時間が多い工程は、それだけ多くの人が関与している可能性が高く、仮に人権リスクが存在する場合、その影響が広範囲に及ぶ可能性があります。したがって、労働時間は人権リスクの潜在的なスケールや深刻度を示す指標として活用され、サプライチェーンにおける優先的な対応領域を評価・特定するために用いられます。

リスク労働時間を算定するため、aiESGでは、S-LCAの方法論の一つである基準尺度(Reference Scale Approach)を用いて、人権への影響を定量的に評価しています。
基準尺度の手法では、人権や労働などの社会的パフォーマンスを国際的な基準と照らし合わせ、リスクの大きさを段階的なスコアで評価することで、定量的に表現します。
基準尺度の手法に基づき、リスク労働時間は下記の手順で算出されます。ここでは例としてある製品における強制労働のリスク労働時間を算出する手順を示します。

人権リスクに関連する統計データの収集
強制労働に関する各国・各産業の信頼できる統計(例:ILO、国務省、NGOデータベースなど)を収集します。

基準尺度によるリスクレベルの決定
収集した情報に基づき、各国・各産業のリスクレベルを「非常に高リスク(VHR)」から「高リスク(HR)」、「中程度のリスク(MR)」、「低リスク(LR)」の4段階に分類します。

リスクレベルに応じた重み付け
上記の各リスクレベルに対応する重みを設定し、リスクの大きさに応じて影響度をスコア化します。

国・産業別の労働時間の推計
当該製品の製造においてかかわる国・産業別の労働時間を国際労働機関(ILO)や国連工業開発機関(UNIDO)、国際協力開発機構(OECD)、国連食糧農業機関(FAO)の時間あたり賃金率データを用いて推計します。

サプライチェーンAIによる統合評価
上記①〜④で得られた人権リスクデータおよび労働時間情報を、弊社独自開発のAIベースのサプライチェーン分析モデルに統合します。これにより、お客様から受領した原材料や工程に関するデータをもとに、製品ごとの全サプライチェーンをたどり、製品の製造にかかる人権リスク(例:強制労働、児童労働など)の分布と影響度を「リスク労働時間」という形で定量的に算出することが可能です

図 2 人権リスク労働時間の算出方法(aiESG作成)

結果の解釈と活用の有用性

人権リスクの算定は、実際の人権侵害の発生を断定するものではありませんが、サプライチェーンにおける潜在的なリスクの所在とその規模を、定量的に把握・比較するための有効な手段です。
このようなリスクの「見える化」により、企業はサプライチェーン上の優先的な対応領域を明確化し、的確な対策を講じるための判断材料を得ることができます。

特にaiESGのモデルでは、膨大な統計・社会データを活用し、AIを用いてサプライチェーン全体を再構成することで、サプライチェーンの最上流まで遡って、製品の製造にかかる強制労働や児童労働などの人権・社会的リスクの可視化が可能です。
また、国際的なガイドラインとも整合しており、人的資本経営やESG開示など、企業の非財務戦略の基盤として活用できます。

見えなかったリスクを「見える判断基準」に変えることで、企業が優先的に取り組むべき課題を明確化し、より倫理的で透明性のある企業経営を後押しします。

まとめ

人権リスクは、企業の透明性と信頼性に大きく影響する重要なテーマです。

株式会社aiESGでは、企業活動に潜む社会的課題をデータとAIによって可視化することで、サステナブルな社会を構築することを目指したサービスを提供しています。お気軽にご相談ください。

aiESGのサービスについて:https://aiesg.co.jp/service/

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