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はじめに
2025年2月19日、aiESG 島村拓弥と代表取締役の馬奈木俊介らが共同執筆した論文が発表されました。
論文タイトル:Evaluating the impact of report readability on ESG scores: A generative AI approach
DOI(論文リンク):https://doi.org/10.1016/j.irfa.2025.104027
本記事では、研究の内容を分かりやすく解説するとともに、aiESGが提供するサービスについてもご紹介します。ESGデータ分析や戦略策定にご関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。
研究のポイント・要約
本研究では、企業の報告書の読みやすさをAI(GPT-4)を用いて評価する新たな指標を作成し、ESGスコアと読みやすさの関連を分析しました。S&P500上位150社による414件のサステナビリティ報告書を対象に分析した結果、文脈や背景説明を含む読みやすい報告書ほど、ESGスコアが高く評価機関の違いによるスコアのばらつきも小さいことが判明しました。特にメディア注目度が低い企業ではその傾向が顕著であり、読みやすさがESG評価に大きな影響を与えることが示されました。
背景・目的
企業はサステナビリティ報告書などで、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する情報を公開しています。しかし、専門用語の多さや文章構造の不明瞭さにより、評価者や投資家が内容を正確に理解しにくい場合があります。
これまでの研究では、文の長さや音節数といった「文字や単語の特徴」に着目した読みやすさ指標が主流でした。一方で、文章の意味を理解するために必要な背景説明や文脈は十分に評価されていませんでした。
そこで、本研究ではAI(GPT-4)を活用して、報告書の「意味のつながり」や「必要な背景説明」を評価する新しい読みやすさの指標を開発し、読みやすさとESG評価機関が付けるスコアとの関係を明らかにすることを目的としています。また、メディア注目度や読み手の背景知識が読みやすさとESG評価の関係にどう影響するかを検討します。
分析
本研究の分析対象は、2017年から2021年までにS&P500上位150社が発行した414件のサステナビリティ報告書です。報告書を40文ずつのまとまりに分け、GPT-4を用いて計12項目(表1)を0~10点で評価しました。得られた読みやすさ評価に対して、実際のESGスコア、評価機関の違いによるESGスコアのばらつき、メディア注目度、読み手の背景知識との関係を統計的に検証しました。

結果
本研究の分析により、以下の知見が得られました。
- AIによる読みやすさ評価が高い報告書ほど、ESGスコアの平均値が高くなり、評価機関ごとのスコアばらつきは小さくなる
- メディア注目度が低い企業ほど、読みやすさがESGスコアに与える影響がより大きい
- AIに言語学者と投資家の役割を与えた場合、投資家の読みやすさ評価の方がESGスコアと強く連動した
- 従来の単語や文字数による指標はESGスコアとほとんど相関がない
以下の表にESGスコアと読みやすさ指標などとの関係を示します。例えば、左上の項について、読みやすさが1増えるとMean_ESGが評価したESGスコアは0.540増えることを表しています。

統計的優位性は10%,5%,1%で、*,**,***であらわします。各評価機関の偶数列には交差項が含まれます。
考察
本研究の結果は、適切な文脈や背景情報に則った文章を構成することで、ESG評価者間での解釈のずれを減らし、企業の評価を安定して高めることにつながることを示しています。
特に社会的認知度が低い企業ほど、報告書以外の情報源が少ないため、読みやすさがより重視される傾向があります。メディアの在り方が変遷している現代において、文脈を考慮した報告書は大きな価値を持つと考えられます。報告書を作成する際には、単に情報量を増やすだけではなく、何がいつどのように行われたかを明確に説明することが必要となります。
まとめ
企業は報告書作成にあたり、専門用語の多用を避け、背景説明や具体的な事例を取り入れて誰にでも理解しやすい文章を書くことが求められます。また、規制当局や業界団体は開示ガイドラインにおいて「分かりやすい説明」の要件を明確化し、文脈や背景情報を重視する指針を示すことが望まれます。
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