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はじめに
本記事は、aiESGのChief Researcherであるキーリーアレクサンダー竜太をはじめ、Chief Scientific Advisorの武田秀太郎、代表取締役の馬奈木俊介らが、2022年9月12日に共同執筆した論文に関する解説記事です。
論文タイトル:Potential for reducing CO2 emissions from passenger cars in Japan by 2030 to achieve carbon neutrality
DOI(論文リンク):https://doi.org/10.1016/j.iatssr.2023.02.004
本記事では、研究の内容を分かりやすく解説するとともに、aiESGが提供するサービスについてもご紹介します。ESGデータ分析や戦略策定にご関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。
本記事で使用される自動車の種類
IECV(ガソリン車):ガソリンのみを燃料とする。
BEV(バッテリー式電動自動車):ガソリンを使用せず、外部電源によるバッテリ充電でモーター走行する。
HEV(ハイブリッド自動車):ガソリンと電気の2つのエネルギーを利用して走行するが、外部からの給電は不可。
PHEV(プラグインハイブリッド自動車):ガソリンと電気の2つのエネルギーを利用し、外部からの給電も可能。
FCV(燃料電池自動車):水素を燃料としてモーター走行する。
研究のポイント・要約
本研究は、2030年の日本における乗用車のCO2排出量を、HEVやBEVなど次世代自動車の導入シナリオに基づき予測・評価したものです。車両製造から燃料生産、使用までのライフサイクル全体の環境影響を分析しました。その結果、PHEVがCO2削減手段として最も有効で、FCVは製造・水素供給の影響で高負荷となることが判明しました。電動車の普及に加え、再生可能エネルギーの比率向上や燃費向上がカーボンニュートラル達成に重要であると結論づけています。
背景・目的
2020年、運輸関連のCO2排出量は世界全体で約75%、日本国内では約19%を占めました。持続可能な社会の実現に向けては、交通部門、特に乗用車からの排出削減が不可欠です。
電気や水素を動力とする次世代自動車は、走行時のCO2排出量が少なく、脱炭素化の鍵とされています。しかし、これらの効果を正確に評価するには、走行時だけでなく、バッテリー充電や水素製造、さらには自動車の生産・廃棄時の環境負荷も考慮した包括的な視点が必要です。
本研究では、次世代自動車が日本の温室効果ガス削減にどの程度貢献できるかを評価し、カーボンニュートラルに向けた提言を行うことを目的としています。
研究方法
本研究では、ライフサイクルアセスメント(LCA)を用いて、各車種の製造段階及び燃料使用段階における環境影響を包括的に評価しました。燃料のライフサイクルには、生産、貯蔵、給油所への運搬、給油、そして使用に至るまでの全工程が含まれています。使用したデータは以下の通りです。
- 対象車種:ICEV、HEV、PHEV、BEV、FCVの5車種
- 対象範囲:
- 2019年の日本における使用台数:6,219万台
- 2019年に新たに販売された台数:433万台
- 車両1台あたりの総走行距離:15万km(仮定)
- 燃料:ガソリン、電気、水素の3種類
また、2030年の利用割合について、以下の4つのシナリオを設定して検討しました。
- すべてガソリン車の場合
- 現状維持(2020年〜2030年の各車種の割合が一定と仮定)
- 新車販売台数の50~70%が次世代自動車
日本政府のロードマップを参考、FCVの普及台数は80万台と想定 - 2035年にガソリン車ゼロを目指す場合
2020年からの減少比率を踏まえ、2030年のガソリン車は18.6%と試算
結果
本研究の分析により、以下の知見が得られました。
- FCEVおよびBEVは、酸性化や人間毒性といった環境負荷において高い傾向を示しました。
- 車体製造時のCO2排出量はFCEVが最も多く、ガソリン車の約10倍。BEVもガソリン車の約4倍の排出量を示しています。
- 燃料使用時のCO2排出量はPHEVが最も少なく、HEVおよびBEVがそれに続きました。
- ライフサイクル全体におけるCO2排出量は、PHEV、HEV、BEVがガソリン車よりも少なく、FCEVはガソリン車を上回りました。

※燃料は走行距離1km当たりのCO2排出量で計算
(論文内のFigure3をaiESGが翻訳作成)
- また、各シナリオごとの温室効果ガス予測排出量は、ガソリン車100%の場合が一番多く、現状維持シナリオが最も少ない結果となりました。

(論文内のFigure4をaiESGが翻訳作成)
考察
本研究では、日本におけるCO2削減手段としてPHEVが最も有効であることが示されました。今後、電力における再生可能エネルギーの比率向上や、自動車の燃費向上が進めば、さらに環境負荷の軽減が期待できます。一方で、FCVは水素の製造および輸送工程における影響により、ライフサイクル全体での環境負荷が高い傾向にあります。
これらの結果から、電力供給および製造過程における環境負荷を低減しつつ、PHEVをはじめとする次世代自動車の導入を進めることが、脱炭素化への一歩となると考えられます。
まとめ
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