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【第三回】ステップ、対応、およびトレンド
〜持続可能なESG志向のサプライチェーン:現代ビジネスの戦略的必須条件〜

※本稿は、aiESGのESG調査チームが執筆した原稿(英文)を和訳し、掲載用に三部構成に編集したものです。英文原稿はこちらよりご覧いただけます。
※Please see the original article in English here.

目次:
はじめに
ESG志向のサプライチェーン:必要なステップと課題
技術的な解決策
aiESGのソリューション
結論と将来の展望

はじめに

本シリーズ「持続可能なESG志向のサプライチェーン:現代ビジネスの戦略的必須条件」では、サプライチェーンと社会や環境の関係、持続可能なサプライチェーンの推進が企業にもたらす影響、推進に向けた行動計画の策定方法などについて三部構成で解説しています。

これまでに、2回にわたって下記のトピックを紹介してきました。

第1回:持続可能なESG志向のサプライチェーン:現代ビジネスの戦略的必須条件
〜サプライチェーンが環境および社会に与える影響〜

第2回:持続可能なESG志向のサプライチェーン:現代ビジネスの戦略的必須条件
〜学術界、ビジネス界、国民からの三面的な視点から主な推進要因とは〜


第3回となる今回は、ESG志向のサプライチェーンを推進するために企業が取るべき必要なステップと、その道のりにおける課題について解説します。また、持続可能なサプライチェーン管理におけるAIを含めたITソリューションの重要性について、aiESGからの最先端の技術を含め紹介します。最後に、サプライチェーンに関する最近の注目すべきトレンドについて簡単に概説します。

ESG志向のサプライチェーン:必要なステップと課題

<専門家や学界からの提言>
多くの学術研究や専門家は、企業がサプライチェーンのESGパフォーマンスを理解し向上させるためには、以下のステップを取る必要があると述べています:
測定とモニタリング (ESGパフォーマンス指標に関するデータを収集する)
サプライヤーエンゲージメント (取引先に対して、規制遵守や倫理的・持続可能な基準の期待値を伝える)
調達決定 (調達時に労働条件、輸送方法のESG影響、使用材料の透明性を考慮する)
サプライヤー管理プログラム (指標に基づき取引先のパフォーマンスを定期的にレビューする)
持続可能なサプライチェーン管理戦略 (効果的な戦略と目標を設定する)

<初期段階の重要性と困難>
どのような措置を講じるべきかについてはさまざまな提言がありますが、多くは「情報の収集 → リソースを動員して行動計画を作成 → 行動を実施 → モニタリング」というシンプルなスキームに従います。ほとんどの企業がまず注力しなければならないのは最初のステップ「情報の収集」であり、現在これに苦労している企業が多いと言えます。学術研究によれば、「情報の収集」段階には以下のアクションが含まれます:
・コンサルティングを受ける
・持続可能性とESGを理解する
・どこに変更が必要かを理解するために事実を収集する
・現段階を評価する
・必要な変更の種類を特定する
・規制およびコンプライアンス要件を特定する
・ESGリスクを特定する
・機会を特定する

しかし、サプライチェーンの複雑さと企業内のESG専門知識の欠如のため、現在多くの企業が苦労しているのは、この「情報の収集」「事実を把握する」段階です。企業はまず、サプライチェーンをマッピングし、主要なリスクホットスポット*を特定することで、サプライチェーンのESGリスクを理解する必要があります。しかし、これは必要な専門知識とツールがなければ困難です。

*リスクホットスポットとは、環境、社会、経済、または運営上のリスクへの高い曝露のために、サプライチェーン内で特に混乱に脆弱な領域のことを指します。

調査によると、購買担当は、サプライチェーン全体で環境および社会への負の影響を減らす必要性を理解する圧力を感じているものの、どのように対処を始めるべきかは明確ではありません。さらに、企業は財政的制約や高コスト、多くのESGフレームワークと基準による混乱、スキル不足、外部支援の欠如などの課題に直面しています。

そのため、サプライチェーンの専門家達は最近、サプライチェーン・オペレーションにおける持続可能性の確保に向けた第一歩を踏み出すのに役立つ、費用対効果の高いITテクノロジー・ソリューションの活用を切望しています。

技術的な解決策

<ITソリューションは、持続可能なサプライチェーン管理という複雑な問題を明確にし、戦略的洞察をもたらすことで、企業の対応戦略開始を支援できます>

上記の問題から、企業がサプライチェーンのESGパフォーマンスを評価・改善する上で、外部コンサルティングやITソリューションが不可欠であることがわかります。調査を実施した専門家によれば、多くのCEOは、サプライチェーンの持続可能性を向上させるためにIT技術を使用することが重要であることに同意しています。

企業の環境的・社会的影響の大部分がサプライチェーンの活動に起因するにもかかわらず、ほとんどの企業はその影響の規模や最大のリスクがどこにあるのか把握していません。実際、多くの企業は、直接取引先であるTier1サプライヤー以外について何も知りません。直接的なサプライヤーを超えたサプライチェーンのマッピングは複雑で困難に見えるかもしれませんが、実際には高いESGリスクを持つ少数のサプライヤーに大きな影響が集中しています。したがって、企業はサプライチェーン全体をより持続可能にするために、これらのリスクの高いサプライヤーから優先的に取り組むことができます。

したがって、持続可能性を向上させるための機会を明らかにするためには、徹底的なサプライチェーン分析が必要です。持続可能なサプライチェーン管理には非常に詳細な注意が必要であり、複雑な構造や関係を理解するためには、適切なデジタルツールと外部支援が不可欠です。

ESG活動には企業の多大なリソース、時間、資金、努力が必要です。持続可能なサプライチェーンへの包括的な取り組みは、財政的に豊かな企業のみが実行できるように思われがちです。多くの企業は、サプライヤー調査のような半手動ツールを使用してESGリスクをマッピングし評価していますが、コストや時間がかかるにも関わらず、アンケートに回答した一部の直接サプライヤーの情報しか収集できません。しかし、企業は通常、Tier1サプライヤーを超えたサプライチェーンの全体像を把握する必要があります。自社の製品/サービスのライフサイクル全体を通してESGの影響を徹底的に分析しない限り、サプライチェーンの全体像や主要なESGリスクのホットスポットがどこにあるのかを把握することはできません。

現代のサプライチェーンには数千のノードが存在する可能性があります。さらに、企業はGHG排出量、水消費量、児童労働などの人権リスクなど、関連するESG指標の増加を考慮しなければならないため、これらのデータの手動管理はすぐに実現不可能になります。

aiESGのソリューション

<aiESGは、最先端の科学研究に基づいた、AIによる独自のソリューションを提供します>

幸いにも、最先端の学術研究とビッグデータやAIのの統合により、企業のこうした課題を支援する新世代のツールが登場しています。aiESGは、原材料の調達先か製品・サービスのライフサイクル全体を通じてESGに与える影響を評価することを支援する、日本初、世界初の製品に焦点を当てたESG可視化ソリューションであると自負しています。

aiESG独自のノウハウによって構築された製品/サービスのESG可視化モデルは、信頼性の高い統計データと科学的アプローチに基づいて、企業の製品・サービスのサプライチェーンの現状把握や概略モデルを作成することができ、規制対応や情報開示のための可視化を行います。aiESGによって構築された製品・サービスのライフサイクルモデルは、原材料をその供給源まで追跡し、サプライチェーン全体でのESGへの影響を把握することができます。このモデルを使用することで、企業は以下のようなさまざまな目的に役立てることができます:
・サプライチェーンのおおよその構造を把握することで、企業は拡張サプライチェーンマップの作成を開始できます。これにより、企業は取引先(および2次、3次取引先)と連携して、バリューチェーン全体の持続可能性パフォーマンスの向上に共同で取り組むことができるようになります。
・どのESG影響が最大で、それがどこにあるのかを理解することで、企業はリスク管理を改善できます。これにより、企業は自社のバリューチェーンの弱点を理解することができます。
・企業は、サプライヤーとの関わりを通じて、高リスクのホットスポットに対処したり、新たな調達ルートを開発したりすることで、サプライチェーン業務の最適化を実施することができます。
・これらの洞察により、企業は増加する規制へのコンプライアンス対応を計画することができます。情報開示を実施することも可能になります。

この他にも、企業はaiESGの専門家サービスをさまざまな方法で利用することができます。つまり、aiESGは持続可能なサプライチェーンへの第一歩である「情報収集」を支援する最先端のソリューションを提供します。これにより、企業は価値のある洞察を低コストで得て、サプライチェーンのESGパフォーマンスを改善する企業価値の向上に繋げることが可能となります。

結論と将来の展望

今回のシリーズでは、サプライチェーン運営をより持続可能なモノとし、ESGを志向するトレンドがどのように進展しているか、何がそのトレンドを推進しているのか(例:客観的圧力、企業の内的動機、無行動のリスク増大)、それに対し企業が取るべきステップ、直面する課題、そして現代の技術ソリューションがどのように企業を支援できるかを詳しく見てきました。また、aiESGサービスが、サプライチェーンの持続可能性に取り組むことを計画している企業にとって、特に初期段階において低コストで有用なソリューションであることにも触れました。

最後に、aiESGの研究に基づき、サプライチェーンに関する今後の3つの主要なトレンドを簡単にご説明します。

第一に、公共の監視がさらに強まり、規制が厳しくなることは間違いありません。これにより、企業はサプライチェーンのパフォーマンスを評価、改善、報告することを余儀なくされるでしょう。自主的な報告フレームワークは、単なる良いビジネス慣行ではなく、競争力を維持するために必要なものとなるでしょう。現在いくつかの先進国で議論およびテスト段階にある法案は、より広範に普及し、無視できないものとなるでしょう。

第二に、消費者の視点から見ても、倫理的に製造された製品への認識と需要が高まることで、「エシカル製品」や「エシカル産業」という市場のニッチが拡大しています。例えば、アパレル業界では「エシカルファッション」や「サステナブルファッション」のトレンドが急速に成長しています。Patagonia(アメリカのアウトドア衣料品小売業者)やAvantii(オーガニックコットンを専門とする日本のファッション企業)などのブランドが、この競争の激しい市場で大きな進歩を遂げています。

最後に、社会的側面、特に人権に関する考慮の重要性が増しています。最近の学術レビュー(Truant et al., 2024)によると、ESG分野での議論は「財務パフォーマンス」や「環境的持続可能性」から「社会的開示」へと着実に変化しています。欧州連合の最近の立法(ドイツのサプライチェーン法企業持続可能性デューデリジェンス指令など)は、企業に対してサプライヤー全体で人権デューデリジェンスを実施することを義務付けています。Apple、ファーストリテイリング(ユニクロ、GU)、メルセデス・ベンツ・グループなどの先進企業は、すでにこの方向に向けた先駆的な取り組みを始めています。

ここまで3回に渡って「持続可能なESG志向のサプライチェーン:現代ビジネスの戦略的必須条件」シリーズとしてお送りしました。読者のみなさまにおいて何らかの有用な洞察を深められたら幸いです。次のシリーズでは、サプライチェーンにおける人権デューデリジェンスのトレンドについて、先進企業の事例研究を紹介し、aiESGが企業のデューデリジェンスプロセスの計画をどのように支援できるかを説明する予定です。次回もぜひご覧ください。

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aiESGでは、製品・サービスレベルにおいてサプライチェーンをさかのぼるESG分析を支援しています。また、ESG関連フレームワークについての基本的な内容から実際の非財務情報の開示に至るまでサポートいたします。ESG関連業務にお困りの企業様はぜひお問合せください。

お問い合わせ:https://aiesg.co.jp/contact/


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