お問い合わせ

TOPICS

  • レポート

電気自動車の普及が社会と環境に与える影響

  • CSRD
  • GHG排出量
  • サプライチェーン
  • 論文解説

INDEX

はじめに

本記事は、aiESGのChief Researcherであるキーリーアレクサンダー竜太、代表取締役の馬奈木俊介らが共同執筆した論文”Beyond carbon: Environmental and social impacts of Japan’s vehicle electrification transition”に関する解説記事です。

本記事では、研究の内容を分かりやすく解説するとともに、aiESGが提供するサービスについてもご紹介します。ESGデータ分析や戦略策定にご関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。

論文タイトル:Beyond carbon: Environmental and social impacts of Japan’s vehicle electrification transition
DOI(論文リンク):https://doi.org/10.1016/j.jenvman.2025.125509

研究のポイント・要約

本稿では、日本における電気自動車(EV)の普及が、環境と社会に及ぼす影響について調査した研究に基づき解説します。これまでEVの環境側面に着目した研究は数多く存在しましたが、本研究では、自動車の製造・供給段階における労働環境や人権侵害といった社会問題にも焦点を当てている点が特徴です。
結果、EVが増えることで走行時の排気ガスは減るものの、発電やバッテリー製造過程などの環境負荷が増えることがわかりました。社会的な影響として、アジア諸国やアフリカなどを中心に社会問題が蔓延していることが判明しました。

背景・目的

地球温暖化対策として、世界各国でガソリン車からEVへの転換が進められています。日本においても、EVやハイブリッド車をはじめとする次世代自動車の普及が加速しています。
しかし、EVの普及は新たな課題も引き起こしています。一部のアフリカやアジア諸国では、EVバッテリーの製造に必要な金属の採掘が、劣悪な労働環境や人権が十分に尊重されない状況下で行われている実態があります。
このような背景を踏まえ、本研究では2020年から2050年までの日本の自動車市場の変化を予測し、環境的および社会的な影響を分析しました。さらに、EV技術の進化やバッテリー寿命の延伸といった要素が、これらの負荷にどのような影響を与えるのかについても検証しています。

分析

本研究では、日本国内の自動車保有台数および車種構成の変化を予測するモデルを構築しました。その上で、2050年までのEV普及に関して、以下の3つのシナリオを設定し分析を行いました。

  1. 現状維持シナリオ: 現在のEV普及傾向が継続するケース
  2. 急速普及シナリオ: EVが急速に普及するケース
  3. ガソリン車0シナリオ: 2035年にガソリン車の新車販売が禁止されるケース

環境影響の評価においては、CO₂排出量や資源消費量を貨幣価値に換算し比較しました。社会影響については、「労働時間」と「社会リスク」を掛け合わせた「リスク時間(mrheq)」という指標を用いて定量的に評価しました。

表1は、各事象のリスクを中程度のリスクを基準として分類したものです。

表1:社会的リスクの重みづけと事象の例(aiESG作成)

結果

EVの普及により、走行時の排気ガス排出量は減少する一方で、発電や製造プロセスにおけるエネルギー消費に伴う新たな環境負荷が生じることが明らかになりました。特に、火力発電の割合が高い日本では、EVの動力源である電力そのものが環境に負の影響を与える可能性が示唆されます。
また、環境影響が主に日本国内に留まるのに対し、社会影響は海外に集中する傾向が見られました。具体的には、中国、アジア諸国、アフリカにおいて、原材料の採掘現場やバッテリー製造工場などで働く人々が危険な労働環境に置かれている事例が多いことが示されました。一方で、バッテリーや車両の長寿命化は、全体的な環境・社会負荷の低減に寄与する可能性も示唆されました。

下図は、日本における自動車全体の社会的負荷の年間推移を可視化したものです。

図1:日本の自動車全体の社会的負荷の年間推移(論文内の図6をaiESGが翻訳作成)
縦軸のSHI(billion mrheq)は中程度リスクを1とした時のリスク時間を示す。

電気自動車の社会的リスクが高く、全体のSHIの大部分を占めており、生産段階における負荷が使用段階を大幅に上回る結果となっています。
ガソリン車0シナリオにおいては、2050年のリスク時間が4,900億mrheq、ピークとなる2037年には6,424億mrheqに達すると予想されます。2037年にピークを迎える主な要因は、次世代自動車への急激な移行に伴うバッテリー需要の急増と考えられます。

考察

本研究の結果から、EVの普及は走行時の環境負荷を低減する一方で、自動車のライフサイクル全体(製造から廃棄まで)を考慮すると、環境的・社会的負荷が大幅に増加する可能性が示唆されました。車種別の影響として、ガソリンエンジンと電気モーターを併用するハイブリッド車は、EVや水素自動車と比較して、環境と社会への負荷のバランスが良い傾向にあることが示されました。
今後の課題として、バッテリーや自動車の長寿命化、部品のリサイクルシステムの構築、再生可能エネルギーによる発電比率の向上といった補完的な対策が不可欠です。製造段階からサプライチェーン全体における環境・社会影響を包括的に評価し、対策を講じることが求められます。

まとめ

株式会社aiESGでは、ESG指標の整理から企業ごとの具体的な支援まで、幅広いサポートを提供しています。ESGに関する情報開示や実務でお困りの際は、お気軽にご相談ください。

aiESGのサービスについて:https://aiesg.co.jp/service/

TALKバナー
社会と企業の理想を叶えるために、aiESGが果たす役割。
CONTACT

ESGに関するお悩みごとがございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

VIEW MORE