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【論文解説】機械学習が示す日本の未来:人口減少下の納税者数・総所得予測

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はじめに

本記事は、aiESGのChief Data ScientistであるLi Chao、Chief Researcherのキーリーアレクサンダー竜太、代表取締役の馬奈木俊介が共同執筆した論文に関する解説記事です。

本記事では、研究の内容を分かりやすく解説するとともに、aiESGが提供するサービスについてもご紹介します。ESGデータ分析や戦略策定にご関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。

論文タイトル:Forecasts and insights into Japan’s fiscal future: Machine learning-based projections of city-level taxpayer numbers and total income from 2020 to 2100
DOI(論文リンク):https://doi.org/10.1016/j.mlwa.2025.100699

研究のポイント・要約

本研究は、機械学習を用いて、2020年から2100年までの日本の1,896都市における納税者数と総所得を予測しました。モデルは98%以上の高い精度で長期予測の信頼性を確保しています。2100年までに納税者数は14.52%減少する一方、総所得は5.21%増加し、平均所得は23.07%増加すると予測されています。これは、人口減少下でも労働参加率の向上により税基盤が維持される可能性を示唆しています。しかし、地方部では納税者数と所得の深刻な減少が見られ、都市部でも所得の停滞に直面する可能性があるため、地域に合わせた政策介入の必要性が強調されています。

背景・目的

日本は、少子高齢化と急速な人口減少、そして都市と地方の格差拡大という複合的な課題に直面しています。特に、地方自治体の財政基盤となる納税者数と総所得は、今後の人口動態の変化によって大きな影響を受けると考えられています。実際、2100年までに日本の人口は2020年比で30%以上減少するとの予測があり、労働力の減少や地域経済の衰退が懸念されています。

本研究では、機械学習と段階的更新技術を活用し、全国1,896都市における納税者数と総所得の長期予測を実施しました。特に、従来の人口予測では掘り下げが不十分だった「納税者人口」に焦点を当て、地域ごとの経済状況をより精緻に把握することを目的としています。

分析

納税者数の予測には、人口統計(32指標)、土地利用(6指標)、夜間光(NTL)、グリッド人口データなど、合計45の変数を活用しました。納税者数の予測結果はさらに新たな変数として加えられ、平均所得(総所得÷納税者数)の予測にも活用されました。

機械学習モデルには、高速かつ高精度な予測を可能とするXGBoostを採用しました。また、最新データを取り込みながらモデルを継続的にアップデートする「段階的更新」によって、2100年までの長期予測においても高い精度を維持しています。また、どのデータが予測に最も影響を与えたかを数値で示すために「変数重要度分析」という手法を使用しました。

結果

予測モデルは非常に高い精度を示しました。納税者数と総所得の決定係数(R²)はそれぞれ99.63%、98.83%に達し、平均絶対誤差(MAE)は納税者数で約1,200人、所得で約62.3億円でした。
図1のように、全国レベルでは、2020年から2100年にかけて総所得が5.21%増加する一方、納税者数は14.52%減少すると予測されました。平均所得は23.07%増加し、納税者率は50.89%から53.56%へと上昇する見込みです。

図1:日本全体における各指標の変化予測(論文内のFigure2をaiESGが翻訳作成)

都市レベルで見ると、2020年に納税者と所得が集中していましたが、2100年には納税者密度が全国的に低下し、特に地方で顕著に減少しました。所得は二極化し、地方で減少する一方、大都市圏周辺で増加がみられました。大都市圏を細かく見ると、都市周辺部で増加し、都市中心部で減少するという逆都市化的傾向も明らかとなりました。

予測における重要因子としては、納税者数には労働年齢人口(15〜65歳)や女性の労働参加率が、平均所得には移住者数や農地・水域割合、夜間光が大きく影響することが示されました。

考察

本研究の結果から、人口減少が続く中でも、働く人の割合が上昇し、平均所得が伸びることで税基盤が一定程度維持される可能性が示唆されました。これには、テクノロジーの進化や就業形態の変化が背景にあると考えられます。

一方で、都市と地方の格差は今後も拡大する見込みです。都市中心部では生活コストの上昇により平均所得が低下し、郊外に人と所得が分散する「逆都市化」が進むと見られます。地方では、若年層の流出と産業衰退によって、納税者数・所得ともに深刻な減少に直面しています。

これらの結果は、地域経済の活性化や経済機会の均衡を図るための政策介入の必要性を示しています。政策提言として、労働力参加の促進、地方インフラへの投資、都市中心部への事業誘致、地方部の活性化が挙げられます。特に、女性や高齢者の就労促進、遠隔地でのテレワークインフラ整備、そして必要に応じた行政区画の調整も検討されるべきです。

まとめ

本研究は、機械学習を用いて、日本の市町村ごとの将来の納税者数と総所得を高精度に予測しました。その結果、人口減少下でも税基盤の維持が可能である一方、都市と地方の構造的な格差拡大という課題も浮き彫りとなりました。こうした人口動態や経済構造の変化を考慮した知見は、株式会社aiESGが提供するESG評価において、特に「社会(Social)」の観点から、地域ごとのリスクと機会を定量的に捉えるための重要なインプットとなります。

株式会社aiESGでは、本研究のような高精度な予測分析を含め、ESG指標の整理・可視化から情報開示対応、実務支援まで包括的なサポートを提供しています。ESGに関する情報開示や実務運用でお困りの際は、お気軽にご相談ください。

aiESGのサービスについて:https://aiesg.co.jp/service/

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