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【セミナーレポート】
開拓者に聞く カーボンニュートラル最前線
〜世界の新潮流をつくる出島組織とESG経営〜

本ページは、aiESG取締役 キーリーが登壇した2023年11月2日に開催されたSPEEDA ASEANとOcean Network Express Pte. Ltd. (ONE) 社の共催セミナー「開拓者に聞くカーボンニュートラル最前線シリーズ〜世界の新潮流をつくる出島組織とESG経営〜」の開催レポートを主催団体の許諾を得て掲載しております。

セミナーでは、ONE社の塩見氏による海運事業でのESGの取り組み、aiESG キーリーによる「ESG経営の新潮流・世界のトレンドと解決策」の講演、また両者によるパネルディスカッションが行われました。キーリーはESGの研究、国際的なトレンド、aiESGの取り組みなどについて解説しています。


PDF版レポートはこちらからご覧いただけます。

Contents
ONE 塩見氏:出島組織「ONE」の成り立ちとESG経営への挑戦 
 コンテナ船事業の歴史
 ONEを取り巻く歴史
 ONEの現在と今後

aiESGキーリー : ESG経営の新潮流・世界のトレンドと解決策
 ESG研究と主な取り組み
 世界の現状
 ESGをめぐる潮流
 企業評価手法の現状
 aiESGの取り組み

パネルディスカッション / ONE 塩見氏、aiESG キーリー、モデレーター:内藤氏
 ESGとSDGsをどのように理解すればよいか?
 日系製造業が取り組むべきESGのアクティビティは?
 色々なESG関連指標があるなかで、何を優先するべきか?
 ESGは欧米主導の政治ゲームの中で、今後何をすべきか?
 科学的なアプローチでスタンダードを作るにあたっての勝ち筋とは?
 ONEの取り組みの現在地は?
 ONEがESGをどのようにして楽しく取り組むようにしているのか?

● ONE 塩見氏:出島組織「ONE」の成り立ちとESG経営への挑戦

Ocean Network Expressの塩見氏からは、コンテナ船事業の歴史の概況、ONE(Ocean Network Express)の事業の歴史、そしてONEのESGの取り組み状況の3点について講演が行われました。

塩見 寿一 氏 Ocean Network Express Pte. Ltd. | Senior Vice President

1995年大阪大学経済学部卒業 さくら銀行(現 三井住友銀行)で不良債権処理等を担当した後に本店で業界 (鉄鋼・海運・陸運・空運)担当者として、間にNY勤務などを挟み、通算10年以上を過ごす。2016年~21年までは同行トランスポーテーション営業部でアジア地域の船舶/航空機ファイナンスの責任者を勤める。

2021年7月にONEに入社。最初はGreen Strategy Department(GSD)で環境戦略の策定に従事。2022/4月からはGSDを再編したCorporate Strategy and Sustainability Department (CSS)にて企業戦略、M&A、環境戦略を担当。同年7月から広報部長を兼任。2023年4月からは財務部長も兼任。

● コンテナ船事業の歴史

– コンテナという発明
コンテナの箱は20世紀最大の発明と言われています。理由は、世界の物流量を大幅に増やしたことで世界経済のインフラストラクチャーの役割を牽引したためです。これを、世界経済のコンテナライゼーションなどと形容したりします。

具体的には、コンテナという箱ができたことで1トンの荷物を60時間かけて荷役していたところが、2分にまで短縮することができるようになりました。また、コンテナを発明した人物が陸上のロジスティクス会社勤務の方だったこともあり、海上と陸上の接続を念頭に設計されていたことで、発明当初からマルチモーダル化が実現できていたことが画期的でした。

数字の上では、1980年から2020年までの40年間で19倍の物流量増加が実現しています。世界経済のGDP成長もほぼパラレルに成長していることもあり、コンテナ船事業は世界経済のインフラという理由の裏付けになるかと思っています。

– コンテナ船事業の概況


日本の国際物流における海運の割合は、99%以上を占めており、この数字だけを見ても世界の物流は海運が支えていると言えるのではないでしょうか。1960年代に出来た最初のフルコンテナ船のサイズは750kgでしたが、現在最も大型の船で24,000tまでスケールが大きくなっています。つまり規模の拡大傾向が続いていると言えるのです。

積載容量のイメージをお伝えすると、40フィートコンテナ(12m程)にバナナが10万本入ります。これはコンテナが60本あるだけで、外国人も含めたシンガポール住民全員にバナナを1本ずつ配ることができるほどの規模であるということです。また、コンテナ船は私たちの生活に必要な物資のうち、建物・水・電気以外のほとんど全てを世界中に運んでいます。コンテナ船のルートは、台風等の影響を考慮して毎回航路を変更しており、ものすごく複雑なシーレーンを形成しています。1本のコンテナ船は、世界中を旋回しているため、AIを活用した管理が行われています。

● ONEを取り巻く歴史

– 日本の船会社の歴史
1985年頃からグローバルのコンテナ船事業に入っています。当時は競合企業も規模が大きくなかったため、日本も比較的高い地位にありました。グローバルのシェアを十分に伸ばせないでいたところ、1994年にMSCがコンテナ船事業に参入し、次々と規模を拡大して現在世界一の地位を占めるに至っています。
つまり、1990年代に日本のコンテナ船会社は世界シェアを下げてしまいました。背景には、株主が日本中心でビジネスを見ていたために機会を逸したことや日本の人口減を機に地盤沈下で成長機会を失っていったことがあるのではないかと考えています。現在、国際貿易では日本は三国間貿易が一般的になっており、国際貿易の中心からは遠ざかっています。

– 会社概要

ONEは日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社からコンテナ船事業を譲り受けた会社です。現在は、世界で第7位の船会社であり、決してグローバルトップというわけではないものの、215隻の船、170万本のコンテナ、11,000人の従業員、80か国に展開するグローバルな会社です。シンガポールに限れば、20か国程の従業員が550人ほど働いています。2016年に3社が統合を発表し、2017年10月からの半年間の準備期間を経て、2018年4月に世界各国同時に新たに事業を開始した日本唯一の外航コンテナ定期船会社となりました。この間にもコンテナ船の大規模化は進んでおり、投資額が増える一方で収益性は悪化の一途をたどっていました。その対応として、アライアンスを形成して投資をせずに荷役する等の工夫を行って乗り切っています。

– ONEを取り巻く他社動向
コンテナ船事業は、日常品を扱っているがゆえに、景気感応度の高いことからリーマンショック等の経済の冷え込みが発生すると業績悪化に直結してしまいます。そんな中、マースクショックと呼ばれる出来事が発生しました。これは当時業界トップだったマースク社が、同社のスケールメリットを活用してコストベースで黒字ギリギリの運賃でサービス提供することで競合他社を駆逐できるのではないかという発想でコスト競争が発生したことに端を発する出来事です。結果的にはマースク社が最も赤字を出し、運賃ダウンが業界全体で発生したことで多くの船会社が生き残れないような状態が出来上がってしまいました。

このマースクショック以降、コンテナ業界は大きく二方向に向かっています。一つがファミリー型の事業形態を採る会社。もう一つは、国策会社です。背景には、船の大型化により1社での経営が難しくなってきている歴史があります。

● ONEの現在と今後

– Phase1の困難な時期を乗り切る
ONEには、「ワン」と読むときと「オーエヌイー」と読むときで明確に伝えるメッセージを変えています。「ワン」と読むときは「As ONE, We can.」というキャッチフレーズを鮮明にしており、様々な困難の中にあっても立ち向かうという意思を示しています。また、出島というアイデンティティの下、外れものとしてどのような価値を出していくかについても検討を重ねており、そのようなメッセージも伝えています。立ち上げ期5年の混乱期には様々な困難がありましたが、HNMという韓国の会社を迎え入れたことやコロナ禍を従業員の高いエンゲージメントで乗り越えたことでPhase1が無事に終わったと考えています。そして、Phase2に向けて重要だと考えているのがサステナビリティです。

– Phase2はサステナビリティを重要視する
船会社は元々ギャンブル好きな性質があります。それは市場が成長していく中、大きな投資をリスクを取って行うことが業界慣行でもあったことが背景にあるのだと思っています。ただ、今後成長鈍化が見込まれる中で、サステナビリティをフォーミュラに加えました。ONEの投資方針の背景には、コンテナ事業のボラティリティは単独では吸収できないという発想があります。

そんな中で、ポートフォリオ経営を行ったり、アカデミアとの連携を進めたり、デジタル化によりオペレーションを高度にシステム化する等も行っています。



また、環境負荷を下げる方向で進めており、一例を挙げるとコンテナに帆を取り付け、帆が風を捉えることで燃費をよくするといったことを行っています。その結果、炭素集約度(カーボンインテンシティ)は約2割弱改善しています。さらに言えば、2008年のIMO開示以前というベンチマーク年に対して6割減を実現できています。

ESGのS(社会)の観点では、地域社会へのコミットメントということで、シスターズアイランド海洋自然保護区や新設バードバーク内のペンギンコーブ等に対する取り組みをしています。G(ガバナンス)の観点では、サステナビリティレポートをいち早く出して、様々な施策を全て開示してCDPのレートもBまで上げることができました。

グローバルカンパニーとして、欧米型のトップダウン型でも日本型のコンセンサス重視型でもなくその中間に位置する会社として、世界のオーナー会社とユニークな立場で勝負をしようと思っています。シンガポールに拠点を置いているものの、日本の海運のチャレンジ精神なども受け継いで、今後もビジネスを展開していこうと思っています。

● aiESG キーリー : ESG経営の新潮流・世界のトレンドと解決策

九州大学工学研究院准教授、株式会社aiESGのチーフリサーチャーのキーリーからは、ESGアプローチやサプライチェーンへの影響、国際的フレームワークの進捗、評価手法の課題、そしてaiESGの取り組みについて解説が行われました。

キーリー アレクサンダー 竜太
株式会社 aiESG チーフリサーチャー | 九州大学工学研究院環境社会部門准教授

環境省「ESGと企業価値」研究代表。ムーンショットプロジェクト「DAC-U」社会工学Co-Unit長T20タスクフォースメンバー。世界銀行リサーチスペシャリスト

社会の問題であるエネルギーの枯渇,環境汚染,人口減少,災害など都市が直面する多岐に渡る複雑な問題に対して都市工学・経済学など多面的かつ学際的なアプローチ方法から実証的な研究を行う。

【主な研究テーマ】
・ESG分析・エネルギー技術(e.g.再エネ,水素,DAC-U)の社会・環境・経済影響評価
・人口減少社会における,経済への外的ショックを踏まえた持続的発展社会に関する分析
・サステイナブル投資とグリーンボンドに関する分析
・企業活動の分析と新たな都市提案

● ESG研究と主な取り組み

京都大学卒業後、世界銀行に勤めていました。国際機関では各国の利害関係が複雑に絡まり社会は変わらないという思いを徐々に持つようになっていきました。そんな折に、ESG研究の第一人者である馬奈木先生に声を掛けられ、アカデミアの立場から研究結果を社会実装するところまでをやってみないかと誘われ、現在九州大学工学研究院准教授として勤務するに至っています。

現在の主な取り組みは、環境省の「ESGと企業価値」、ムーンショットプロジェクト「DAC-U」(空気中の二酸化炭素等を薄い膜で捕捉して燃料に変える研究)、G20に対する提言書の提出等です。国連・新国富報告書は、ノーベル経済学者のケネス・アローが作成したものを踏襲して国・自治体レベルでの持続可能性を測っていく取り組みのことを指します。総じて、ESG・ファイナンスとサステナビリティの評価を主な研究対象としていて、社会実装までを見据えた取り組みをしていると理解ください。

今回プレゼンするESGの内容は、自分のアカデミアの知見から生まれたものが半分、もう半分は事業を創っていく中で生まれたものだと考えていただきたいと思います。

●世界の現状

スライドの写真は、インドデリーの縫製工場における児童労働を写したものです。現在、実際には児童労働・移民労働・強制労働が世界中で存在しています。また、インドネシアのボゴールでの写真は、ゴミ山の中を裸足で入っていって作業をしている実態を捉えたもので、人々は有毒ガスに晒されていることを示しています。私たちが日々使っているパソコンや携帯電話が成り立っているのは、このような労働の支えがあってこそ、という厳しい現実があるのです。

アパレル産業のTシャツ1枚が作られるまでのサプライチェーンを遡ってすべての労働者にどの程度の社会影響を及ぼしているかを示したものが、こちらのTシャツの絵が描かれたスライドです。詳細は割愛しますが、人権が保護されていない状況下で、ジェンダー問題や病院へのアクセス問題を含めた様々な問題が、一つのTシャツができるまでのサプライチェーンからも見えてきます。こういう実態が我々の生活基盤となっているからこそ、ESGを変えていかなければならないというのは自然な流れであると思っています。

● ESGをめぐる潮流

ESGとは、環境・社会・ガバナンスの頭文字をとったものです。ESGの重要性が高まる中で国際的なフレームワークがかなり整備されてきました。

日本企業で一番開示が進んでいるのがTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)です。ただ、目線を他国に向けるとTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に注目が集まっています。これは今年の9月に公開されたもので、Nature-Related(自然関連)ということで自然資本、生態系、生物多様性だけでなく先住民への影響やコミュニティへの影響といった社会面が入っていることが特徴です。国際社会が、環境だけでなく社会にも目を向けたという状態であると理解いただければと思っています。

最後のTIFDは、どこまで取りまとめが成功するか分からないが、Inequality(不公平性)に関する開示を進めようというグローバルの動きです。どの程度、この動きがメインストリームになるか分かりませんが、形式や名称を変えて世界中に浸透するという大きな流れは間違いなく来るといってよいと考えています。

そもそも、ガイドラインがなくともESGに取り組まないことが、企業価値に悪影響を与えることは、いくつかの事例によっても示されています。例えば、ナイキ社はサプライチェーンを辿っていくと末端の方で強制労働が多発している実態が浮き彫りとなり、消費者からも不買運動が起こる事態に発展しました。

投資家からのESG対応要請も高まってきています。ESG投資の定義に見直しが入ったこともあり、数字は変わってきていますが、全体的なトレンドとしては年々運用額の割合は増加傾向にあります。2022年では40%を超える投資額がESGであるという結果も出ています。

TCFD、TNFD、TIFD以外にも上位概念としてSDGsやパリ協定、ビジネスと人権といった大きなフレームワークが国際的な枠組みとして整備されてきている。潮流としては、法的拘束力のないソフトローだったものが、法的拘束力のあるハードロー化してきているというのが実態です。


欧州のイギリスやドイツでは指針を出して、数年以内に法制度化しており、サプライチェーン全体を通じて社会面でも全体をモニタリングすべきという流れが出てきているが、G7各国の中で日本はだいぶ遅れをとっている状況です。

TNFDの更に次の段階としてCSRD(企業サステナビリティ報告指令)への対応等、企業が対応すべき事項は増えており、また基準も刻々と変化している状況ではありますが、やがて収斂していくものとみています。これはあくまで推計ではあるが、CSRDの対象日本企業は約800社とも言われており、看過できない状況です。

企業は、環境・社会面の情報開示(例:排出量削減貢献量等)をしっかりと行わないとサプライヤー等との取引を停止されてしまうといった事例が実際に生じ始めているのが現状です。こういった状況下で、何をどこまで対応すべきかを日々企業と一緒に検討しています。

● 企業評価手法の現状

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG評価に際して使っている外部評価機関としてよく聞く名前が、MSCI(モルガンスタンレー派生)、Refinitiv(ロイター社派生)などです。公平性・透明性の観点でかなりバイアスがかかっていると言われています。実際にESG評価のデータの中身を分析すると、評価項目に一貫性がないことが明らかとなりました。具体的には各評価機関のESGスコアの相関関係ですが、相関係数が0.5を超えるものが一つもありませんでした。これはGPIFが、BloombergとMSCIの評価基準を基に投資をしたらどのような投資リターンになるか見当がつかない状況であることを示しています。そのため、情報開示をする企業側も何を信じてよいのか分からない状況であると言えるでしょう。

また、開示基準も百花繚乱の状態で、俗にアルファベットスープなどと呼ばれています。ですが近年、IFRSに統合される形で収斂に向かっており、GRI、SASB、CDP、TCFD等の様々な評価指標で開示が求められているものを包含するものとなっていく見通しです。

● aiESGの取り組み

aiESGは、サービスリリースから順調に規模を拡大できており、JAFCOから出資を受けたり、Google for Startupsに採択されたり、G20 Policy Briefに採択され日経新聞に掲載されたりとプレゼンスを高めることができています。



aiESGは、MSCIのような企業単位でのESG評価だけではなく、製品・サービス単位でのESG評価をサービスとして提供している。具体的には、企業が保有している仕掛品や財務情報等のデータに基づいて、冒頭のTシャツ製造にかかった労働時間のコストと同様の定量的なデータを算出することができます。当然、製品単位で出来れば工場・事業部単位、企業単位でもESG評価ができるため、汎用性が高いと言えます。

これまでのESG評価で用いられていたデータは、CO2や水使用量といった僅かな項目の定量データであって、それ以外の項目はゼロかイチの定性データでした。そのため、あまり正確な評価指標ではありませんでした。弊社は、3,200近い指標を全て定量的にみる試みをしており、例えば、CO2以外の温室効果ガスやバイオマス等を収集しています。

加えて、社会面での評価を正確に行うために、サテライトデータというものを時間をかけて作成しており、例えば資源採掘からユーザーの利用に至るまでの社会的な影響を全て明らかにできるような仕組みを作っています。

データを見ると日本企業は総じてすでにサプライチェーンの取り組みが進んでおり、報われるべき企業が多い印象を抱いています。国際社会で見るとヨーロッパがルール作りで先行している中、日本発で情報発信していく意義を感じています。例えば、国際炭素税調整措置は完全に欧州の自国産業を目的としていると思われるもので、トヨタを狙った政治的な措置だと言っても過言ではないと思っています。国の利害関係を反映したものではなく、ニュートラルにみていくことに価値を感じています。一例を挙げると、日本とアメリカの自動車を製品比較すると、一部指標では劣るところはあるものの、総じて日本車の方がESG的にみてもプラスであるということが示せています。このような問題意識で日本発のESG評価をグローバルに活用してもらうために今動いています。

パネルディスカッション / モデレーター:内藤氏

パネルディスカッションでは、ESGとSDGs理解、日系製造業のアクティビティ、指標優先順位、科学的アプローチの必要性、政治ゲームとの関連、ESG取り組みの事例、実務アプローチの重要性、Ocean Network Express (ONE)のKPI設定と取り組みについて議論いただきました。

モデレーター:内藤 靖統 氏
株式会社ユーザベース | 執行役員SPEEDA 東南アジア事業 CEO

ユーザベース入社に伴い2016年に渡星。SPEEDA事業を通じ、ASEAN各国及びスリランカ出身のメンバーともに日系企業の経営企画・事業開発に必要な調査を支援。2020年より現職。

ユーザベース入社前は、大中華圏市場での事業統合・買収後統合を主導するなど、アジア圏での事業改革を推進。また、新卒で入社したコンサルティングファームにて、組織戦略・物流改革・業務改革等に従事するなど、一貫して事業改革を推進するキャリアを歩む。

共著に「新興国進出のためのグローバル組織・人材マネジメント」がある。

● ESGとSDGsの関係は?

– aiESG キーリー
理解を促すために一例を挙げると、SDGsの中には「作る側の責任、使う側の責任」があります。これは、使う側まで含めた目標であることを示しています。たしかに、ESGとSDGsは対応関係を示すこともできますが、SDGsは社会全体、全てのステークホルダーが取り組むべきことであるのに対して、ESGは企業側が取り組むべきことであるという風に整理ができます。ただ誤解して欲しくないのは、ESGをコストとみて欲しくないということです。ESGへの取り組みが企業価値向上に寄与しているという研究を我々はしてきています。

●日系製造業が取り組むべきESGアクティビティは?

– aiESG キーリー
S(社会)やE(環境)のネガティブな側面が、企業価値に悪影響を与えるリスクを下げることです。加えて、ポジティブな側面を打ち出して企業価値を上げるべくPRをしていくことがポイントだと思います。

その際、ホットスポットを捉えることが重要です。例えば、ある製品の菜種油を現在オランダ由来のものからフランス、ドイツ、イタリア等に変えるとどうなるかといったことを複合的に見ていって一番正しそうな組み合わせを検討するといったことです。経済性とのバランスを加味することはもちろんですが、このような対応をすることでESGスコアの向上に寄与するものと思われます。
また、R&D段階から取り組むことも重要です。小売店であるイオンやセブンイレブンの場合でも、あまねく商品をESGフレンドリーにしていくという大きなミッションに取り組まれており、製造業でも製造の段階から簡易的にニーズチェック等を行い、シミュレーションをすることで大きなリスクを前もって低減することができます。

●色々なESG関連指標があるなかで、何を優先するべきか?

– aiESG キーリー
現在、最もESG評価で使われているのがMSCIではありますが、物理量(定量的なデータ)はわずかで、ほとんどは開示業務のない定性的なデータに基づいて判断がなされています。今の市場は、この評価を受け入れてはいるものの、私は信頼性に乏しいデータだと思っており、aiESGがこの流れを変えていきたいと思っています。

● ESGは欧米主導の政治ゲームの中では?

– aiESG キーリー
欧州に勝つためには、圧倒的に科学的で中立的なバイアスのない定量指標を提示することが重要です。また、定量指標の出し方は透明性が高いことが重要です。ここまでしっかり行うことで文句のつけようのない指標となります。それを日本発で行うことが今取り組んでいることです。


– ONE 塩見氏
アレックス氏に補足すると、IMOが燃料規制に関して審議を進めており、2年前に日本、EU、中国からそれぞれ提案を受けていました。実際日本の案は、科学的で中立的ではあったものの、IMOの会合が非公開であるためにこの事実を知っている人が殆どいないのが実態です。日本人はどこか欧州からトップダウンで決められた基準に盲目的に従ってしまっていたのではないでしょうか。このような事実から、私たち事業者がすべきことは2点あると考えています。一つは数字で定量的に示すこと。もう一つは、「見える化」して世の中に晒すことです。

●科学的なアプローチでスタンダードを作るにあたっての勝ち筋とは?

– aiESG キーリー
一つは国際機関からのアプローチがあります。ダブルマテリアリティの開示についても、WEF(世界経済フォーラム)がステークホルダー資本主義の文脈で使われていき、まずはソフトローとしてガイドラインに反映されていき、それが徐々に義務化・ハードロー化されるといった流れになっていました。国際機関や各国の研究機関に対してアプローチをしていくことで、正しさを証明していくことが重要です。例えば、Jクレジットでバイオ炭が認められた背景には、研究論文が1本のIPCCの報告書に掲載されていたことが挙げられます。アカデミアの論文は、エビデンスベースのため説得力・信頼性が強いです。サイエンスは国の利害関係は関係ないため、国際会議の場で打ち出していくというのは重要だと思います。

もう一つは実務面からのアプローチです。つまり、信頼性の高い情報を開示していくことで、デファクトスタンダードを作っていくというアプローチを指します。例えばTNFDは、現在自主開示の段階のためどのような項目を開示してもよいことになっています。そこで、各企業がポジティブな面を定量的かつ透明性を持って分かりやすく信頼性の高い情報を開示することで、事例を積み上げていくことは重要ではないかと思っています。

● ONEの取り組みの現在地は?

– ONE 塩見氏
過去はレギュレーション対応でしたが、アカデミアとの協業拡大の中でKPI設定を始めています。長期間のスパンで、様々なKPIを測定して企業価値が本当に上がるかどうかを試行錯誤で検証しようというスタンスで今は取り組んでいます。ONEの提供データのメッシュの粗さや違いによって見当違いの回答を評価会社から得ることも多々あるのが現状ですが、これは西部開拓時代のように正解がない中で誰も見つけていない鉱脈を探すような取り組みであり、結果的にコンテナ船会社のデファクトスタンダードを見つけられればよいと思っています。

● ONEがESGをどのようにして楽しく取り組むようにしているのか?

– ONE 塩見氏
基本的に肩書や部門関係なく、イーブンな組織であるようにしています。そしてアイデアがある人材は、責任感を持ってチャレンジをするといったオープンな雰囲気を作っています。


セミナーレポートは以上です。

aiESGでは世界のトレンドを踏まえたうえで、ESG評価やサステナビリティ―関連の支援を行っています。開示対応、サステナビリティ―関連での取り組みをご検討の企業・自治体様はぜひお問合せください。


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