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2025年7月31日、株式会社aiESGは、農林中央金庫 経営企画部 サステナブル経営班 調査役の髙橋沙織氏をゲストにお招きし、ウェビナー『企業がこれから取り組むべきESG経営とは?〜農林中央金庫の先進事例から学ぶTNFDの第一歩~』を開催いたしました。本ウェビナーでは、上場企業を中心に対応が急務となっているTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への具体的なアプローチと、ESG経営を企業価値向上に繋げるための戦略について、農林中央金庫様の先進事例を交えながらお伝えしました。

<登壇者情報>
髙橋 沙織氏(農林中央金庫 経営企画部 サステナブル経営班 調査役)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、ワシントンD.C. アメリカン大学にて社会学修士号を取得。外資系コンサルティングを経て、日本総合研究所にて、サステナブルファイナンスや脱炭素に係る調査及びコンサルティングに従事。その後、金融庁国際室にて、サステナブルファイナンスに係る金融監督政策を議論する国際会議に出席。24年8月より農林中央金庫経営企画部サステナブル経営班で、当金庫全体のサステナブル経営やサステナブルファイナンス関連の戦略企画を担当。
馬奈木 俊介(aiESG 代表取締役・九州大学 主幹教授)
国連Inclusive Wealth Report Director。気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 代表執筆者。OECD貿易と環境に関する共同作業部会副議長等多くの国際機関や企業との連携を実施。日本学術会議サステナブル投資小委員会委員長。著書25冊、学術誌論文400本。日本学術振興会賞受賞他多くの受賞歴を有する。
ウェビナー開催の背景
本ウェビナーは、「ESGの重要性は理解しているものの、具体的な推進方法が分からない」「情報開示が“やらされ仕事”になり、企業価値向上に繋がっている実感がない」といった共通の課題を抱えている企業の担当者向けに開催しました。
特に、2023年に最終提言が公表されたTNFDは、自然資本や生物多様性に関するリスクと機会の開示を求めるものであり、その導入に対して多くの企業が課題を抱えています。
こうした課題に対し、TNFD開示におけるデータの重要性と、ESG経営を企業成長のエンジンに変えるための具体的なヒントを提供することを本ウェビナーの目的としました。
aiESG代表 馬奈木による登壇:「新しいESG経営」の潮流とAIの可能性
馬奈木は、ESGの新たな潮流として「新国富指標(※1)」に触れ、GDPだけでなく人的資本や自然資本の重要性が増していることを強調しました。その上で、aiESGが独自開発したESG特化型生成AIの革新性を紹介しました。主なポイントは以下の通りです。
(※1)新国富指標:GDPを補完する新たな価値として2012年に国連が発表した指標。「現在を生きるわれわれ、そして将来の世代が得るだろう福祉を生み出す、社会が保有する富の金銭的価値」を数値化したもの。
• AIによるESG分析の高度化と株価への影響:
通常のデータベンダーのESG評価では反映されにくい企業の経営状況や取り組みを、aiESGのAIでは130言語、数百万のニュース、25,000以上の企業報告書からリアルタイムで分析をすることができます。また、企業のESG活動が株価に5%以上の影響を与えることが定量的に示されています。
参考論文:https://council.science/publications/hlpf-2025-five-years-to-course-correct/
• サプライチェーン全体のESGリスク定量評価:
Tier1(直接の取引先)だけでなく、Tier2、Tier3以降のサプライチェーン全体をAIと多地域産業連関モデルで分析することで、どの国・セクターでリスクが高いか、どの工程でESGリスクが上昇するかを可視化できます。これにより、従来の現地調査に比べて効率的かつ精度の高いリスク特定が可能になります。
• TNFD自動レポート作成ビルダーの開発:
TNFDへの対応が企業の課題となる中、TNFDレポート作成の負担を大幅に軽減するツールを現在開発中であると述べました。このツールでは、Tier1の購買データからサプライチェーンの定量化が実施可能です。
• 社会の変化とAIの役割:
消費者がESG情報に反応する時代が到来しており、政治的な逆風(例:米国トランプ政権)にもかかわらず、実質的なESGへの取り組みを求める流れは加速しています。AIを活用した広範かつ簡易な分析から、人力の深堀調査へとつなげることがグローバルスタンダードとなることを示唆しました。
aiESG馬奈木登壇資料:
https://drive.google.com/file/d/18SHVpw6FXKITUn8P_WBti3vhACll_SA1/view?usp=drive_link
髙橋氏による農林中央金庫様の先進事例:農林中央金庫の自然関連リスク分析
農林中央金庫は、投融資サイドと資金調達サイドの双方で、自然資本や生物多様性に深く関わるユニークな金融機関です。同金庫は、金融・非金融の貢献を通じて機会獲得とリスク緩和を図っており、TCFD・TNFDを統合的に開示する『Climate & Nature Report』(C&Nレポート)を定期的に発行しています。最新版は2025年8月1日に公開されました。
髙橋氏の講演では、特に農林中央金庫におけるTNFDのLEAPアプローチに即したリスク分析全体の概要と、その分析のパーツを形成するaiESGとの連携によるサプライチェーン分析の深化に焦点が当てられました。
• LEAPアプローチに即したリスク分析:
発見(Locate)、診断(Evaluate)、評価(Assess)、準備(Prepare)の4つの軸に沿ってリスク分析を実施。特に「診断(Evaluate)」の段階でaiESGの分析ツールを連携活用し、ENCORE(自然への依存・インパクトとポートフォリオ規模に基づく重要セクター特定)で得られた情報を深掘りし、マテリアルなセクターに分析対象を絞って、サプライチェーン分析をされました。
• 分析スコープと指標の拡充:
昨年度の5つのサブセクターから、食品関連の他のサブセクター(レストラン、食品小売、食品流通、生活必需品小売、農業機械、肥料・農薬、百貨店、タバコ)に分析対象を拡充。GHG排出量、淡水使用量、強制労働など、17の環境・社会指標を用いて分析が行われました。
• 主要な分析結果:
- エクスポージャーを加味した分析では、食品小売、生活必需品小売、レストランの3つのサブセクターの環境・社会負荷が相対的に高いことが判明。
- 単位生産金額あたりの負荷では、レストランセクターが相対的に大きい結果となりました。
- 異なるサブセクターが共通のサプライチェーンを通じて製品を調達している可能性が示唆され、例えば食品小売や百貨店が、サプライチェーンを遡ると米国の油糧種子農業にエクスポージャーがあることが特定されました。
- AIによる情報収集で、米国中西部における油糧種子農業では、灌漑による取水量が非常に多く、乾燥地域では水資源枯渇リスクをもたらしていることが明らかになりました。
• 課題と今後の展望:
自然関連リスクを金融機関の財務基盤や経営課題と結びつけるストーリー構築の重要性、職員全体の理解浸透、顧客との地道な対話の継続を課題として認識。今後は、分析で得られた情報を完璧でなくてもアクションに繋げ、投融資先との共創を通じて課題解決と機会創出に取り組んでいく方針を示されました。
農林中央金庫 髙橋様 登壇資料:
https://drive.google.com/file/d/1qJBMgGGaPZBH5yG54GATIILMWw4EFB7j/view?usp=drive_link
参考:農林中央金庫様ニュースリリース:「Climate & Natureレポート2025」の発行について
パネルディスカッション:TNFD導入の壁を乗り越える実践的アプローチ
質疑応答では、企業がTNFD開示に取り組む上での共通の課題や、aiESGのソリューションの有効性について活発な議論が交わされました。
• TNFD導入の壁と克服:
農林中央金庫は、チーフ・サステナビリティ・オフィサーによる支店職員とのサステナブル経営に関する対話(キャラバン)や職員向け内部ポータルでの情報共有など、地道なコミュニケーションを通じて、自然関連リスクが財務・経営に深く関わる問題であるという理解を組織全体に浸透させる努力を続けていると回答されました。
• 国際的な評価:
農林中央金庫の先進的な取り組みは、国際科学会議(ISC)と世界工学団体連盟(WFEO)が国連ハイレベル政治フォーラムに向けて発表したポジションペーパーにも掲載され、aiESGのAIを活用したサプライチェーンESG分析がグローバルスタンダードになり得る事例として紹介されました。
• 分析の製造業等への適用可能性:
金融機関特有のポートフォリオ全体分析とは異なるものの、サプライチェーンを遡って自然関連リスクを分析する視点は、製造業など他業種にとっても不可欠であるとの共通認識が示されました。特に、どの品目、どの地域にマテリアルな課題があるか不明な場合には、AIを用いて、全世界を対象に、多くの品目に関する大量のデータを処理する、トップダウン分析が有効です。AIの精緻な予測値を活用しながら、サプライチェーンのどこに企業価値に関連するマテリアルなリスクがあるのかを見極めることが、社内を説得しやすく、持続可能な取り組みに繋がると提言されました。
• 企業への期待:
企業が財務的にマテリアルな課題を特定し、自然関連リスクと企業価値との関連に係るストーリーを構築し、そこにデータの裏付けを付与することで、効率的に企業価値を向上することの重要性を、農林中央金庫から強調いただきました。また、一連の取組み高度化やネイチャーポジティブに向けたトランジションへの金融・非金融面での投融資先への支援を通じて、企業とともに持続的に成長していきたいと締めくくられました。
まとめと今後の展望
本ウェビナーは、TNFD対応が喫緊の課題である企業に対し、農林中央金庫様の先進的な実践事例とaiESGのAI技術によるサプライチェーン分析の有効性を具体的に示す貴重な機会となりました。
aiESGは、今後もESG経営やサステナビリティ推進に関する各種セミナーや個別相談を順次実施してまいります。
また、TNFDの初期コストと専門知識を軽減し、TNFDレポート作成の負担を減らすための「TNFD自動レポート作成ツール」の開発を進めており、リリース時には改めて情報提供を行う予定です。
ご参加いただいた皆様からのTNFDへの関心の高さと課題の大きさを改めて実感し、aiESGは今後も皆様のESG経営推進を強力に支援してまいります。
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