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【論文解説】中国–米国貿易が各国のCO₂排出に与える影響とは?189か国の分析結果

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はじめに

本記事は、aiESGのデータサイエンティストである張嘉旭、Chief Researcherであるキーリーアレクサンダー竜太、代表取締役の馬奈木俊介らが共同執筆した論文に関する解説記事です。

本記事では、研究の内容を分かりやすく解説するとともに、aiESGが提供するサービスについてもご紹介します。ESGデータ分析や戦略策定にご関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。

論文タイトル:Does participation in China U.S. trade impede carbon emission reduction efforts across countries?
DOI(論文リンク):https://doi.org/10.1016/j.ecolecon.2025.108732

研究のポイント・要約

本研究は、2000〜2021年における中国・米国間貿易が世界各国の二酸化炭素排出強度に与える影響を検証しています。189か国・26部門を対象に、中国・米国貿易に関わる国々の排出強度が世界平均より高い傾向を確認しつつ、その差が時間とともに縮小していることを明らかにしました。地域別では欧米で低下傾向が見られる一方、アジア・南米・アフリカでは多様な変化が見られます。産業別では電力・ガス・水道が依然として高水準である一方、電子・機械では改善が進んでいます。貿易の方向(中国→米国、米国→中国)によっても影響は異なり、産業特性や貿易上の立ち位置が排出強度に影響を与えることが示されました。

背景・目的

気候変動は世界的な喫緊の課題であり、国際貿易がその一因となることが指摘されています。特に、世界の二大経済大国である中国と米国の貿易は、世界全体の二酸化炭素排出量に大きな影響を与えています。この貿易は経済成長を促進する一方で、「カーボンリーケージ(carbon leakage)」や「汚染の避難所効果(pollution haven effect)」といった、環境への悪影響を引き起こす現象をもたらす可能性があります。これらは、厳格な環境規制を持つ国から規制の緩い国へ生産拠点が移転し、結果的に世界全体の排出量や汚染量を増加させる現象を指します。

これまでの研究は、中国と米国の二国間関係や特定の貿易経路に焦点を当てることが多く、参加国全体の排出強度や長期的変化、貿易方向別の分析は不足していました。本研究は、中国と米国の貿易への関与が、各国の二酸化炭素排出強度にどのような影響を与えるのかを体系的に分析することを目的としています。

分析

本研究では、2000年から2021年までの189か国・26産業にわたるデータを網羅したデータベースと多地域産業連関(MRIO)モデルを組み合わせ、貿易に伴う炭素排出を詳細に追跡しました。具体的には、中国・米国間貿易における各国の排出強度と、世界全体への輸出平均の差(σ値)を算出し、産業別(第一次・第二次・第三次)および貿易方向別(中国→米国、米国→中国)に比較分析しました。

結果

全体的な傾向:中国・米国貿易参加国は、世界の平均貿易よりも高い炭素排出強度を示しますが、この差は時間とともに徐々に縮小しています。

地域別の傾向:北米やヨーロッパの国々は、高付加価値かつ低炭素な製品・サービスを提供しているため、中国・米国間の貿易における排出強度が世界平均より低い傾向にあります。一方、アジア・南米・アフリカの国々では、経済や産業構造の違いにより、排出強度の動向は地域ごとに異なります。

図1 中米貿易参加各国の炭素排出原単位の比較(2000~2021年平均)単位:kg/$
注:斜線はデータのない国を表す。 論文内のFigure1をaiESGが翻訳作成

産業別の傾向

  • 電力・ガス・水道:安定供給のため設備更新が難しく、高い排出強度が継続。
  • 電気機械産業:大規模生産ラインの高効率設計により低い排出強度を維持。
  • 農業・漁業:
    • 中国→米国:大規模経営による効率化が進み、排出強度が大幅に低下。
    • 米国→中国:低排出から高排出へ変化。中国市場の需要変化などが影響。
  • 鉱業:低品位資源の開発シフトにより排出強度が上昇。
  • 繊維・アパレル:労働集約工程から染色などエネルギー集約工程への移行で上昇。
  • 卸売・小売業:低炭素な取引仲介から、在庫管理・包装など高炭素活動を伴うサービスへ移行し上昇。
  • 食品・飲料
    • 中国→米国:一次加工への依存により高排出が継続。
    • 米国→中国:2011年までは低排出だったが、新興市場国の参入などにより増加。その後、パンデミックを経て再び効率的な生産モデルへシフトし低排出化。

考察

本研究は、中国・米国間貿易に参加する国々が、世界平均と比較して高い二酸化炭素排出強度を持つ傾向を明らかにしました。この結果は、汚染集約型産業が規制の緩い国へ移転するという「汚染の避難所仮説」を支持するものです。排出強度は技術普及と生産ネットワークの深化により、徐々に世界平均へと収束する傾向もみられるものの、この改善は必ずしも技術革新によるものではなく高排出工程の地理的移転による場合も示唆されます。

地域別では、北米・欧州で改善傾向が見られる一方、アジア・南米・アフリカでは国ごとに異なる動きを示しています。産業別では、インフラ部門は設備更新の制約から高排出が続く一方、電子・機械は技術進歩により低減傾向が見られました。卸売・小売、金融などのサービス部門では、物流や在庫管理の複雑化に伴う「見えにくい」間接排出の増加が確認されました。

さらに、貿易方向によっても影響が異なり、特に農業や食品部門では輸出先市場の規制や需要が生産方法に直接影響を及ぼす事例が見られました。これらの結果は、国別総量ではなく特定の貿易関係に焦点を当てた「関係性カーボン会計」の必要性を示しています。

まとめ

本論文は、中国・米国間貿易が第三国の排出強度を高める傾向を指摘し、産業構造や貿易関係に応じた排出削減の重要性を強調しました。株式会社aiESGでは、このような経済構造全体を考慮した分析・可視化や企業・製品・サービス単位でサプライチェーン全体をAIとビッグデータを活用し可視化し、人的・自然資本を含めたESGリスクを定量評価する技術を有しています。ESGに関する情報開示や実務でお困りの際は、お気軽にご相談ください。

aiESGのサービスについて:https://aiesg.co.jp/service/

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